スペース
スペス · スペース・アウグスタ · Spes
ローマの希望の女神。前258年に神殿が建てられ、帝政期には皇帝の即位や後継者の誕生に際してスペース・アウグスタとして貨幣に刻まれた。開きかけの花を持って歩む古風な少女の姿で表される。
解説
概要
スペース(Spes、ラテン語で「希望」)は、古代ローマの宗教において女神として崇拝された。スペースの神殿は多数知られ、碑文は国家の祭祀だけでなく私的な信仰も受けたことを示す。
共和政期の希望
共和政期、「古き希望」(スペース・ウェトゥス)の神殿がプラエネスティーナ門の近くにあったとされる。前5世紀の出来事と結びつけられているが、私的な祠以外の何かとして存在したかは疑われている。
よく記録された神殿は、第一次ポエニ戦争中の前258年、執政官アウルス・アティリウス・カラティヌスが建てた。フォルム・ホリトリウムの神殿である。前31年に落雷で焼け、ゲルマニクスが再建した。
帝政期の希望
帝政期、スペースは皇帝の統治の展望を表す図像として貨幣に用いられた。スペース・アウグスタ——帝室の希望——は、新しい皇帝の即位、後継者の誕生に際して鋳造された。
クラウディウスは41年、スペースの神殿を再奉献し、その貨幣にスペース・アウグスタを刻んだ。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、トラヤヌス帝のドゥポンディウス貨幣である(103年頃)。裏面にスペースを描く。
貨幣においてスペースは、左手で衣の裾を持ち上げ、右手に開きかけの花——通常は百合あるいは芥子——を持って歩む若い女として表される。古風な衣と歩む姿勢が特徴で、アルカイック期のギリシア彫刻の少女像(コレー)の型を借りている。
開きかけの花が、この女神の象徴である。まだ開いていない花——これから開く可能性——が、希望の視覚的な表現になっている。
関わる神格・伝承
ギリシアのエルピス——パンドーラーの箱に残った希望——に対応する。フィデース、パークスと並ぶ帝政期の政治的な擬人神。
文化的足跡
キリスト教は「信仰・希望・愛」の三徳においてスペースを取り込み、擬人像としての希望は錨を持つ女として中世以降に描かれた。ローマの貨幣の花を持つ女から、錨を持つ女への変化は、異教から教会への図像の移行を示す。