シェディーム
シェディーム · シェード · Shedim
タナハとユダヤ神話の霊。旧約聖書では異教の神を指し、他民族の神を劣った霊的存在として位置づける。名はメソポタミアの守護霊シェードゥに由来する。タルムードでは天使と人の性質を三つずつ持つ中間の存在とされ、イスラームのジンと同型。
解説
概要
シェディーム(単数形シェード)は、旧約聖書やユダヤの伝承に現れる霊、あるいは悪霊である。旧約聖書では、イスラエル以外の民の神々を指す言葉として二度現れる。タルムードでは、翼を持ち未来を知るという天使に似た性質と、食べ、増え、死ぬという人間に似た性質とをあわせ持つ、天使と人間のあいだの存在とされた。キリスト教の悪魔の考えとはそのまま重ならない、ユダヤ独自の霊の観念である。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
旧約聖書のシェディーム
「シェード」の語は、旧約聖書に二度現れる。『申命記』32章17節は「彼らは神ならぬシェディームに犠牲を捧げた」と記し、『詩篇』106篇37節は「彼らはその息子と娘をシェディームに捧げた」と記す。どちらも、イスラエル以外の民の神々を指している。ほかの民の神々を、存在しないものとしてではなく、劣った霊的な存在として位置づけているのである。ギリシア語訳の七十人訳はこれを「ダイモニア」と訳し、のちのキリスト教の「デーモン」の考えへとつながっていった。
守りの霊から悪霊へ
「シェード」は、アッカド語の「シェードゥ」に由来する。メソポタミアでシェードゥは、人を守る霊であった。宮殿の門を守る、人の顔と翼を持つ牡牛の像も、シェードゥ(ラマッス)と呼ばれる。人を守る霊の名が、ほかの民の神々を指す言葉となり、やがて悪霊の名になったのである。
天使と人間のあいだ
タルムードでは、シェディームは日々の暮らしのなかにいる存在として扱われる。シェディームは、翼を持ち、世界の端から端へ飛び、未来を知るという、天使と同じ三つの性質を持つ。同時に、食べ飲み、増え、死ぬという、人間と同じ三つの性質も持っている。天使でも人間でもない、そのあいだの存在なのである。食べ、増え、死ぬ霊的な存在という点で、イスラームのジンと同じ形をしている。
シェディームは、廃墟や便所、木の下など、人のまわりのいたるところに満ちているとされた。灰を撒いて足跡を確かめたり、黒猫の胎盤の灰を目に塗ったりすれば、その姿が見えるという記述もある。タルムードでは、アスモデウスがシェディームの王とされる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、魔術書に描かれた悪魔の図(ウェルカム・コレクション)である。
関わる伝承
メソポタミアのシェードゥに由来し、ジンと同じ型に属する。人に害をなす霊マッズィーキームとも近い。
文化的足跡
シェディームの観念は、キリスト教の悪魔観とは異なる系統をなしている。近年、ユダヤ教の霊の観念を独自のものとして理解しようとする研究が進められている。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。