ラートリー
ラートリー · ラートリ · 夜の女神
ヴェーダの夜の女神で、暁の女神ウシャスの姉。夜空の星を目としてあらゆる地を監視し、狼と盗人を遠ざけると祈られた。独立讃歌は一篇のみで、像に表されることなく讃歌のなかにのみ存在する。
解説
概要
ラートリー(Rātrī、「夜」の意)は、インド神話における夜の女神である。天空神ディヤウスの娘で、暁の女神ウシャスの姉。また太陽の母とされる。
『リグ・ヴェーダ』における数少ない女神の一つであり、ウシャスとともに称えられることが多いが、独立讃歌はわずか一詩篇にとどまる(第10巻127歌)。
讃歌
讃歌においては夜間の安全と安息が祈願されている。それによると女神は夜空の星を目としてあらゆる地を監視し、ウシャスと交代して暗闇を遠ざけ、帰路に就く者を守護し、狼や盗人を遠ざけるという。
「夜の女神が来た、多くの目をもって四方を見渡しながら。……ラートリーよ、狼を遠ざけよ、盗人を遠ざけよ、我らを安らかに渡らせよ」
星を目と見る比喩が、この讃歌の中心にある。夜空全体が女神の視線であり、その監視が安全を保証する。
『アタルヴァ・ヴェーダ』には五つの讃歌が捧げられ、そこではより呪術的な性格——悪霊を退ける力——が強調される。
ウシャスとの関係
ラートリーとウシャスは姉妹であり、交互に現れる。「二人の姉妹は、色を異にしながら、同じ道を歩む」と讃歌は歌う。夜と暁が交替することを、姉妹の入れ替わりとして表す。
ヴェーダの女神のうち、ウシャスには二十を超える讃歌が捧げられるのに対し、ラートリーには一つしかない。暁が繰り返し讃えられ、夜はほとんど歌われない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、リシケーシュの夜空である。
固有の図像は伝わらない。ラートリーは像に表されることがなく、讃歌のなかにのみ存在する。
後代のヒンドゥー教において、ラートリーはカーリーやドゥルガーの相として吸収された。夜の女神の独立した信仰は残らなかった。
関わる神格・伝承
父はディヤウス、妹はウシャス。ヴェーダの女神。
文化的足跡
『リグ・ヴェーダ』のラートリー讃歌は、その簡潔さと美しさから、しばしば引用される。「星を目とする夜」という比喩は、インド詩の伝統に受け継がれた。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。