テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
ラタトスク
PLATE — RATATOSKR
NORÐR · 北欧神話
RATATOSKR

ラタトスク

ラタトスクル · ラタトスィク · Ratatosk

AM 738 4to(アイスランド語写本、1680年頃) PUBLIC DOMAIN

北欧神話で世界樹ユグドラシルを駆け上り駆け下りる栗鼠。頂の鷲と根もとのニーズヘッグのあいだで悪意ある言葉を運び、両者を煽り立てる。

01

解説

概要

ラタトスク(Ratatoskr)は、北欧神話において世界樹ユグドラシルを駆け上り駆け下りる栗鼠である。頂に止まる鷲と、根もとに横たわるニーズヘッグとのあいだで言葉を運ぶ。ただし運ぶのは伝言というより、両者を怒らせるための悪口である。

名は rata- と -toskr の二要素から成る。-toskr は「牙」を意味するとされる。グズブランド・ヴィグフッソンは rata- を「旅する者」と解し、伝説の錐ラティの名も同じ語だと考えた。ソフス・ブッゲは、-toskr が古ノルド語のほかの箇所に一度も現れないことを根拠に、この名を古英語からの借用(「鼠の歯」)とみた。しかしアルベルト・スターテヴァントは、Rata が『ハーヴァマール』第106節で、オーディンが詩の蜜酒を求めて岩を穿つのに用いた道具を指していることを挙げてこれを退け、古ノルド語固有の「穿つもの、齧るもの」と解すべきだと論じた。今日では「穿つ歯」「錐の歯」とする解釈が通説である。

登場する物語

古エッダ』の『グリームニルの言葉』は、ラタトスクがユグドラシルを走り上り走り下り、頂の鷲と下方のニーズヘッグのあいだに言葉を運ぶと歌う。

『散文のエッダ』の『ギュルヴィたぶらかし』第16章は、これをより具体的に語る。トネリコの頂には物知りの鷲が止まり、その両眼のあいだにヴェズルフェルニルという鷹が座っている。ラタトスクという栗鼠は樹を駆け上り駆け下りし、悪意ある噂を告げて、鷲とニーズヘッグを煽り立てる。

伝わるのはこれだけである。何を言ったのかも、なぜそうするのかも語られない。ラグナロクにおける役割も記されていない。

図像と象徴

本サイトが掲げるのは、17世紀アイスランドの写本 AM 738 4to(1680年頃)に描かれた図である。ニーズヘッグやヴェズルフェルニルを描いた図と同じ写本に由来する。異教期の造形は知られていない。

ルドルフ・ジメクは、この栗鼠を『グリームニルの言葉』における世界樹の描写を彩る細部にすぎないだろうとみる。ヒルダ・エリス・デイヴィッドソンは、樹を齧る存在の一つとして、破壊と再生が絶えず繰り返される世界の象徴という読みを示した。

ジョン・リンドウの指摘はより鋭い。ユグドラシルは片側が腐り、四頭の牡鹿とニーズヘッグに食まれている。そこに加えて、この樹は言葉による敵意までも抱えているというのである。そしてリンドウは、サガにおいて争いを煽り立て、悪意ある言葉を当事者のあいだで運ぶ人物が身分の高い者であることはまずないと述べる。神話がこの役目を取るに足らない小動物に割り当てたのは、そのためかもしれない。

リチャード・W・ソリントンとケイティ・フェレルは、この造形をヨーロッパアカリスの習性——危険を察すると叱りつけるような警戒音を発する——に由来するとみる。木の上のリスが自分の悪口を言っているように聞こえる、というわけである。

関わる伝承

同じ樹に棲むものとして、名を伝えない鷲、その眉間の鷹ヴェズルフェルニル、根もとのニーズヘッグ、幹を食む四頭の牡鹿がいる。ラタトスクはこのうち唯一、樹の上下を行き来する存在である。

樹の頂に鳥、根もとに蛇という配置は各地の宇宙観に見られるが、その二者を仲介する動物が置かれ、しかもそれが敵意を煽る役目を負うという構成は、北欧神話に固有である。世界樹は静かな柱ではなく、絶えず食まれ、腐り、罵り合いの舞台にもなっている。

文化的足跡

現代の受容では、ラタトスクはユグドラシルの図解に欠かせない存在として広く知られる。北欧神話の生き物のなかでも、姿を思い浮かべやすく親しみやすい部類に属する。

原典が伝えるのは、しかし可愛らしい使者ではない。仕事は伝言ではなく讒言であり、成果は樹の上下に住む二者の憎悪である。北欧神話は、世界を支える樹のただ中に、争いを絶やさぬための仕組みを一つ置いている。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q118494 — 骨格データの出典
Commons
Ratatoskr — 図像カテゴリ