麒麟
麒 · 麟 · きりん
中国神話の霊獣。四霊の一で、聖王の世に現れる仁徳の瑞獣とされる。鹿に似た体に一角をもち、生き物を傷つけぬ穏やかな性質で知られる。
解説
概要
麒麟(きりん、qílín)は、中国神話にあらわれる霊獣である。四霊の一に数えられ、聖王が世に出るときや吉事の前触れとして姿を見せる、仁徳の瑞獣とされる。「麒」が雄、「麟」が雌を指すという。竜や鳳凰と並ぶ瑞獣でありながら、他を圧する力ではなく、穏やかで生き物を害さぬ性質によって尊ばれた点に、麒麟の特色がある。
登場する物語
麒麟は徳の象徴として、古典に繰り返し現れる。とりわけ名高いのが「獲麟(かくりん)」の故事である。魯の年代記『春秋』は、哀公十四年、狩りで麒麟が捕らえられ傷ついたという記事をもって筆を擱(お)く。乱世に現れて非業に遭った瑞獣に、孔子はみずからの道の行われぬ世を重ね、深く嘆いたと伝えられる。後世にはまた、孔子の誕生に先立って麒麟があらわれ玉書を吐いたとする伝説が生まれ、子を授ける吉兆「麒麟送子」として民間に広まった。
図像と象徴
麒麟は、複数の獣の特徴を合わせた姿で描かれる。鹿に似た体に牛の尾、馬の蹄をもち、頭には肉に包まれた一本の角を戴くのが典型である。全身を鱗が覆い、五色に彩られることもある。その角の先が柔らかい肉に包まれているのは、生き物を傷つけまいとする仁の性質を表すとされた。歩むときも虫を踏まず、生えた草を折らぬという。明代の類書『三才図会』の木版図は、こうした麒麟像の代表的な図様を伝える。なお明の永楽年間、鄭和(ていわ)の艦隊がアフリカから連れ帰った長頸の獣(ジラフ)が瑞獣の麒麟に擬せられ、東アジアでキリンを「麒麟」と呼ぶ由来ともなった。
関わる伝承
麒麟は竜・鳳凰・霊亀とともに四霊をなす。同じ一角の獣である獬豸としばしば造形が似通うが、麒麟が仁徳を、獬豸が曲直の裁きを担う点で受け持つ徳目が異なる。いずれも聖王の治世に現れる瑞獣だが、麒麟はとりわけ仁と徳の象徴として、儒教的な価値観と強く結びついた。
文化的足跡
麒麟の名は、傑出した才の持ち主を「麒麟児」と呼ぶ語などに残り、東アジアの吉祥文様として工芸や建築を飾ってきた。日本では「きりん」の読みが動物のキリンにも転用された。現代の創作にも瑞獣としてしばしば登場する。