麒麟
麒 · 麟 · きりん
中国神話の霊獣で、四霊の一。聖王の世に現れる仁徳の瑞獣とされ、鹿に似た体に牛の尾、肉に包まれた一角をもつ。『春秋』は前481年に麟が捕らえられた記事で筆を擱く。1414年に鄭和の艦隊が連れ帰ったジラフは麒麟になぞらえられた。
解説
概要
麒麟(きりん、qílín)は、中国神話にあらわれる霊獣である。四霊の一に数えられ、聖王が世に出るときや吉事の前触れとして姿を見せる、仁徳の瑞獣とされる。「麒」が雄、「麟」が雌を指すという。竜や鳳凰と並ぶ瑞獣で、穏やかで生き物を害さぬ性質によって尊ばれた。
神話・伝承
麟が現れる最古の文献は、『詩経』周南の「麟之趾」である。以後、麒麟は徳の象徴として古典に繰り返し現れる。とりわけ名高いのが「獲麟(かくりん)」の故事である。魯の年代記『春秋』は、哀公十四年(前481年)、西方の狩りで麟が捕らえられたという記事をもって筆を擱く。『左伝』は、それを麟と見分けたのは孔子であったと記す。乱世に現れて非業に遭った瑞獣に、孔子はみずからの道の行われぬ世を重ねて嘆いたと伝えられる。後世にはまた、孔子の誕生に先立って麒麟があらわれ玉書を吐いたとする伝説が生まれ、子を授ける吉兆「麒麟送子」として民間に広まった。
図像と象徴
麒麟は、複数の獣の特徴を合わせた姿で描かれる。鹿に似た体に牛の尾、馬の蹄をもち、頭には肉に包まれた一本の角を戴くのが典型である。全身を鱗が覆い、五色に彩られることもある。その角の先が柔らかい肉に包まれているのは、生き物を傷つけまいとする仁の性質を表すとされた。生きた虫を踏まず、生えた草を折らぬともいう。本サイトが掲げるのは、明代の類書『三才図会』の木版図である。
1414年、鄭和の艦隊がアフリカのマリンディから連れ帰った二頭のジラフが南京に着くと、永楽帝はこれを麒麟になぞらえた。
系譜と関係
麒麟は竜・鳳凰・霊亀とともに四霊をなす。同じ一角の獣である獬豸としばしば造形が似通うが、麒麟が仁徳を、獬豸が曲直の裁きを担う点で受け持つ徳目が異なる。いずれも聖王の治世に現れる瑞獣だが、麒麟はとりわけ仁と徳の象徴として、儒教的な価値観と強く結びついた。
翼を持つ霊獣貔貅と混同されることがあるが、翼の有無で見分けられる。
文化的足跡
麒麟の名は、傑出した才の持ち主を「麒麟児」と呼ぶ語などに残り、東アジアの吉祥文様として工芸や建築を飾ってきた。日本語の「キリン」は、動物のジラフを指す語にもなった。
なお道教と中国の民間信仰は今日も信仰されている生きた伝統であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。