パネース
プロートゴノス · エーリケパイオス · メーティス
オルペウス教の宇宙論で宇宙卵から生まれた原初の神。両性具有で黄金の翼を持ち、光と善を司る。エロースやミトラスと等置される。
解説
概要
パネース(Φάνης)またはプロートゴノス(Πρωτογόνος、「最初に生まれた者」)は、オルペウス教の宇宙論における原初の神である。創造の始まりに、宇宙卵から生まれた。
エーリケパイオス(「力」)、メーティス(「思考」)など、複数の名で呼ばれる。
神話・物語
オルペウス教の宇宙論において、パネースはしばしばエロースあるいはミトラスと等置され、蛇の絡みついた宇宙卵——オルペウスの卵——から現れる神として描かれた。兜をかぶり、広く黄金の翼を持つ。
オルペウス教の宇宙論は、ホメーロスとヘーシオドスの示す創造譚とはかなり異なる。研究者は、その本来の二元論のゆえに、この教説が「非ギリシア的」あるいは「アジア的」だと指摘してきた。
クロノスが宇宙の銀の卵を作り、そこから最初に生まれた神パネース——あるいはパネース=ディオニューソス——が現れたとされる。パネースは両性具有の神であり、男女両方の性器を備えていた。
光と善の神であり、その名は「光をもたらす」「輝く」を意味する。深淵から現れて宇宙を生んだ最初の神である。夜(ニュクス)は、その娘とも年上の妻とも言われる。ニュクスはパネースの対をなす存在であり、アリストパネースは彼女を最初の神格とみなした。
オルペウス教の文献において、パネースはクロノスとアナンケー、あるいは黒い鳥と風の姿をとったニュクスの世界卵から孵ったとされる。年上の妻ニュクスは彼をプロートゴノスと呼んだ。彼女が夜を創ったのに対し、パネースは昼と、混じり合いによる創造の方法を創った。そして神々の支配者とされた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、モデナ出土の浮彫である(後2世紀)。オルペウス教の神パネースを表す。
図像の要素は多い。蛇の巻きつく身体、広げた翼、獣の頭、そして黄道十二宮の輪。ミトラス教の図像との共通点が多く、両者の関係が論じられてきた。
両性具有という設定が、この神の性格を決めている。最初に生まれた神が男女いずれでもあり、そこから「混じり合いによる創造」——すなわち性による生殖——が始まる。単一の存在から二性が分化するという構成である。
関わる神格・伝承
親はクロノスとアナンケー、あるいはニュクス。娘にして妻はニュクス。エロース、ミトラス、ディオニューソスと同一視される。
オルペウス教の宇宙論は、ヘーシオドス『神統記』とはまったく異なる系譜を立てる。カオスから始まるのではなく、時(クロノス)と必然(アナンケー)から卵が生じ、そこから光の神が現れる。同じギリシアの神話体系のなかに、複数の創世譚が並存している。
文化的足跡
日本語圏では、オルペウス教そのものが紹介される機会に乏しく、この神の名が挙げられることはまずない。
しかしオルペウス教の宇宙論は、後代の新プラトン主義を経てヨーロッパの神秘思想に流れ込んだ。宇宙卵という観念は、インドのブラフマーンダをはじめ各地に見られるが、そこから両性具有の光の神が現れるという筋は、この体系に固有のものである。