クロノス(時間の神)
クロヌス · フロノス · 父なる時
時を人格化したギリシアの神。伴侶はアナンケー。ティーターンのクロノスと混同され、その大鎌が「父なる時」の持物になった。
解説
概要
クロノス(Χρόνος、「時」)は、ギリシア神話で時を人格化した神である。ソクラテス以前の哲学、そして後代の文学においても論じられる。
伴侶は女神アナンケーである。
古代においてしばしばティーターンのクロノス(Κρόνος)と混同され、あるいは意識的に同一視された。名が似ているためである。この同一視はルネサンス期に広まり、大鎌を振るう「父なる時」の図像を生んだ。
神話・物語
オルペウス教の伝統では、老いることのないクロノスは「大地と水」によって生み出され、アイテール、カオス、そして一つの卵を産んだ。この卵から両性具有の神パネースが生まれ、パネースが第一世代の神々を生んで、宇宙の究極の創造者となる。
前6世紀頃、シュロスのペレキュデースは失われた著作『七つの奥処』において、三つの永遠の原理があると主張した。クロノス、ザス(ゼウス)、そしてクトニエー(大地なるもの)である。クロノスの精が大地の奥処に置かれ、第一世代の神々が生じたという。
これらはいずれも、神話というより宇宙論に属する。クロノスは物語の主人公ではなく、世界の構造を説明するために立てられた原理である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、イタリア・センティヌムのローマ期の別荘から出た床モザイクである(200〜250年頃、ミュンヘン・グリュプトテーク蔵)。黄道十二宮の輪を回す男の姿で表され、下方には大地の女神テルースが横たわる。
この人物は通常アイオーン(永劫)と同定されるが、循環する時の象徴として、クロノスと比較される図像である。ギリシア・ローマのモザイクは、クロノスを黄道の輪を回す男として描いた。
一般的な図像では、厚い灰色の髭をたくわえた老いた冷酷な男として表される。時が持つ破壊的で息を詰まらせる側面を人格化したものである。
ティーターンのクロノスとの混同が、この図像に決定的な影響を与えた。プルタルコスによれば、ギリシア人はクロノス(Κρόνος)をクロノス(Χρόνος)の寓意的な名だと考えていたという。ティーターンの持つ大鎌——父ウーラノスを去勢した鎌——が、時の擬人像の持物になった。今日「父なる時」(Father Time)が大鎌を持つのは、この取り違えの結果である。
関わる神格・伝承
伴侶はアナンケー。オルペウス教の宇宙論ではパネースの父。ティーターンのクロノスとは別の神格である。
ローマにおける対応神格としてはアイオーン、そして循環する時を表すサエクルムが挙げられる。ただしいずれも厳密な対応ではない。
文化的足跡
「クロノス」という語は、近代語において時間そのものを指す接頭辞として定着した。クロノロジー(年代学)、クロノメーター(精密時計)、シンクロナイズ(同期)——いずれもこの語に発する。
ギリシア語には時を表す語がもう一つある。カイロス——好機、決定的な瞬間を指す語である。クロノスが等速で流れる量的な時間を表すのに対し、カイロスは質を持った時を表す。この対比は今日でも神学や哲学の議論で用いられる。
大鎌を持つ骸骨めいた老人という「死神」の図像も、この混同の系譜に連なる。時の神と農耕神の取り違えが、西洋における死の擬人像の姿を決めたことになる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。