パトロス
パトロス · ペコルス · ピクラス
古プロイセン人の冥界と死者の神で、白い髭の老人の姿。その像の下に人・馬・牛の三つの首が置かれたとされる。名はのちに悪魔を指す語となった。聖域ロムヴァと大祭司の記述は、キリスト教の教会組織を投影したものとする説が有力である。
解説
概要
パトロス(パトゥル、ペコルスとも)は、古プロイセン人が崇拝したとされる冥界と死者の神である。資料にはペコルスとパトロという二つの名が現れるが、多くの研究者はこれらを同じ神の別名とみている。リトアニア語ではピクラス、ピクオリスと呼ばれる。
なお本サイトの分類では、バルト神話の体系に含めて扱う。
老人と三つの首
16世紀のジーモン・グルナウの年代記は、この神を白い髭の老人の姿で描く。グルナウによれば、聖域ロムヴァではその像の下に人と馬と牛の首が置かれていたとされ、これらが供物として捧げられていたことを示すと考えられている。三柱の主神のうち、死と冥界を担う神にふさわしい姿である。
名が悪魔になる
リトアニア語の「ピクタス」は「怒った」「悪い」を意味し、「ピクラス」はキリスト教化ののち悪魔を指す語になった。同じ地下の神であるヴェルニアスの名もまた悪魔を意味するようになっており、死と冥界の神がキリスト教のもとで悪魔と同一視されるという同じ道筋をたどっている。
聖域ロムヴァ
ロムヴァは、古プロイセンの地(現在のロシア領カリーニングラード州)にあったとされる聖域である。1326年に『プロイセン年代記』を著したペーター・フォン・ドゥスブルクは、ナドルヴァの地のロムヴァにクリヴェと呼ばれる祭司の長が住み、プロイセン人ばかりかほかのバルト諸族からもローマの教皇のように敬われていたと記した。常緑の樫の三つの洞に三柱の神の像が置かれていたという名高い情景は、16世紀のグルナウがこの記述に書き加えたもので、ウプサラの神殿についてのブレーメンのアダムの記述を借りたものと考えられている。
しかし、ロムヴァが同時代の資料に現れるのはドゥスブルクのこの一箇所だけである。中央集権的な異教の教会組織という像は、記録者が自らのキリスト教会の姿を投影したものだとする見方が有力になっている。征服した側が、征服された側の宗教を自分たちの制度に似せて描いた例といえる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、プロイセンの三柱の神を描いた図である。
関わる神格・伝承
文化的足跡
「ロムヴァ」の名は、今日リトアニアで古い信仰を再建しようとする運動の名に用いられている。この運動は1967年に始まり、2002年に宗教団体として登録された。