ヴェルニアス
ヴェルニアス · ヴェルンス · ヴェリナス
バルトの地下の神格で、死者と家畜を司る。雷神ペルクナスに追われ、木や石や動物に姿を変えて隠れるため、雷が木を裂く。キリスト教化ののち名がそのまま悪魔を意味する語となったが、民話では取引の相手であり、しばしば愚かである。
解説
概要
ヴェルニアス(ラトビア語ではヴェルンス)は、バルトの神話における地下の神である。死者と家畜にかかわり、雷神に追われる存在として語られる。キリスト教が入ってのち、その名は悪魔を指す語に転じ、今日のリトアニア語で「ヴェルニアス」は悪魔を意味する普通の言葉になっている。
なお本サイトの分類では、バルト神話の体系に含めて扱う。
死者と家畜の神
語源は死者の霊を指す「ヴェレ」にかかわり、ラトビアには死者を迎える女神「ヴェリュ・マーテ(死者の母)」がいる。ヴェルニアスは死者の領域の神であると同時に家畜の守り手でもあった。語の形でも職能でも、スラヴのヴェレスとよく対応する。
雷神に追われる
バルト神話の中心にある主題の一つが、雷神ペルクナスとの争いである。ペルクナスが雷を放って追うと、ヴェルニアスは木や石や水、あるいは動物に姿を変えて隠れる。雷が木を裂くのはそこに隠れた彼を撃つためであり、家に逃げ込めばその家が雷に打たれる。落雷という現象が、天の神と地下の神の追跡劇として説明されている。
この構図は、スラヴのペルーンとヴェレスの争いと同じ型をしている。雷神が蛇や地下の存在を打つ話は、インドラとヴリトラ、トールとヨルムンガンド、ゼウスとテューポーンにも見られ、イヴァーノフとトポロフはこれを印欧語族に共通する「基本神話」として再構成した。ただし、断片的な資料を体系にまとめすぎているという批判もある。
民話のヴェルニアス
民話のなかのヴェルニアスは、片方の脚が獣の脚になった、灰色の服の紳士の姿で現れる。富を持ち、人に契約を持ちかけるが、しばしば人間に出し抜かれて損をする。恐ろしいというより、どこか間の抜けた取引相手である。
神から悪魔へ
ラトビアでは13世紀、リトアニアでは14世紀末以降のキリスト教化のなかで、ヴェルニアスは悪魔と同一視され、地下の神の名がそのまま悪魔を指す普通名詞になった。それでも民話のヴェルニアスは単純な悪ではなく、取引の相手であり続けた。教会の説く悪魔と、民話に残った地下の神とが、一つの名のもとに重なっている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。リトアニアのカウナスには、悪魔の像を三千点以上集めたヴェルニアス博物館がある。
関わる神格・伝承
雷神ペルクナスの敵。スラヴのヴェレスに対応する。
文化的足跡
「ヴェルニアス」は、今日もリトアニア語で悪魔を意味する日常語として使われている。