パーレース
パレス · Pales
ローマの羊飼いと家畜の神。性別が男とも女とも定まらず、単数にも複数にもなる。祭パリーリア(4月21日)はローマ建国記念日と一致し、羊飼いが篝火を跳び越えて群れを浄めた。パラティーヌスの語源ともされる。
解説
概要
パーレース(Pales)は、ローマの羊飼いと家畜の群れの神である。男神とする資料と女神とする資料があり、ラテン語の名は単数にも複数にもなって、二柱の神を指すと解される例もある。祭パリーリアの日はローマ建国の記念日と重なり、牧人の神でありながら都市ローマの起源と結びついた。ギリシアのパーンと職能が近いが、パーンのような物語はもたない。
パリーリア祭
パーレースの祭はパリーリア(Parilia、Palilia とも)と呼ばれ、4月21日に祝われた。オウィディウス『祭暦』第4巻が祭の手順を詳しく伝える。羊飼いは夕暮れに羊小屋を掃き清め、枝と花輪で飾る。硫黄を焚いた煙で羊を燻し、ウェスタの巫女から受けた浄めの品——10月の馬の血、焼いた仔牛の灰、豆の茎——を火にくべる。供物は粟の菓子と乳である。
供物を捧げた羊飼いは、知らずに犯したかもしれない過ちの赦しを女神に乞う。聖なる森で木陰に休んだこと、群れが墓所の草を食んだこと、病んだ羊のために聖なる木の枝を折ったこと、群れが泉を濁らせたことなどを一つずつ挙げ、泉のニュンペーや水浴するディアーナ、真昼のファウヌスの姿を見ずに済むよう願う。そのあと東を向いて祈りを四度唱え、燃える藁の山を跳び越える。
プルータルコス『ロームルス伝』(12章)は、ロームルスがこの日に都市の礎を据えたと伝える。羊飼いに育てられた建国者の伝承と、牧人の祭の日付が重ね合わされている。
図像と象徴
古代の作例で、パーレースを名指しできるものは乏しい。性別も数も定まらないまま職能の名として残った神格であり、人の姿に結ぶ図像の伝統は育たなかった。本サイトの主画像は、16世紀ネーデルラントの版画連作「女神とニュンペー」の一枚(1564年、アムステルダム国立美術館蔵)で、牧草地と牧人の女神として、群れのそばに座る女の姿で表されている。
系譜と関係
親や配偶を伝える古代の資料はない。ファウヌスとは家畜と牧野の守りという点で職能が重なる。
前267年、執政官マルクス・アティリウス・レグルスはイタリア南端のサッレンティーニ人との戦いでパーレースに神殿を誓願したと伝えられ、羊飼いの神は国家の祭祀にも取り込まれた。ローマの丘パラティーヌスの名をパーレースから説く語源説も古代からある。
文化的足跡
ウェルギリウス『農耕詩』第3巻は、牧畜を主題とする巻の冒頭で「大いなるパーレース」に呼びかける。パリーリアはローマ市の誕生日として帝政期を通じて祝われ、今日のローマ市も4月21日を建国記念日としている。