ナッ
ナッ · 三十七の大ナッ · マハーギリ
ミャンマーで仏教と結びついて崇拝される霊。11世紀にアノーヤター王が無数のナッを「三十七の大ナッ」に限り、帝釈天にあたるタジャーミンを王として仏教の下に組み込んだ——排除でなく統制である。大ナッの多くは非業の死を遂げた人間で、王に焼き殺されたマハーギリの兄妹は家の守護として祀られる。
解説
概要
ナッは、ミャンマーとその周辺で、仏教と並んで祀られてきた精霊である。数多いナッのなかでも、「三十七の大ナッ」と呼ばれる公式の一覧が重んじられ、その多くは非業の死を遂げた人間の霊である。11世紀、パガン朝のアノーヤター王が、無数のナッを三十七に限り、仏教の下に位置づけて統制した。
なお本サイトの分類では、東南アジアの神話を主たる体系とし、仏教を併記する。群として扱う。
非業の死が神を生む
三十七の大ナッの多くは、王に殺された者、処刑された者、事故で命を落とした者など、非業の死を遂げた人々である。なかでも重要なマハーギリは、力を恐れた王に焼き殺された鍛冶屋の兄であり、その妹も後を追って火に身を投じた。二人の霊は木に宿ったとされる。今日、ミャンマーの家の柱に吊るされる椰子の実は、このマハーギリに捧げられたものである。非業の死を遂げた者が祀られて守り手となるという構図は、日本の御霊信仰や、南インドのカティヴァヌール・ヴィーランとも通じる。
王による統制
11世紀、パガン朝のアノーヤター王は上座部仏教を国の宗教とし、土地のナッへの信仰を抑えようとした。王は信仰を禁じるのではなく、数えきれないナッを三十七に限って公式の一覧を定め、仏教の帝釈天(インドラ)にあたるタジャーミンをその長に据えた。ナッを仏教を守る存在として、仏教の体系の下に位置づけたのである。在来の信仰を排除するのではなく、数を限り、仏教の下に組み込むことで統制したと言える。
ナッの妻
ナッと人とをつなぐ霊媒は、「ナッの妻」(ナッ・カドー)と呼ばれる。多くは女性だが男性の霊媒もおり、しばしば性的少数者がその役を担ってきた。マンダレー近郊のタウンビョンでは、毎年大規模なナッの祭が営まれる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ビルマのナッの像である。
関わる神格・伝承
タジャーミンを長とし、マハーギリをはじめとする三十七の大ナッからなる。
同じ東南アジアの土地の霊として、カンボジアのネアック・ターがある。
文化的足跡
ナッへの信仰は、今日もミャンマーの仏教徒の暮らしに深く根づいている。
なお東南アジアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。