ナイラートミヤー
ナイラートミヤー · ダクメマ · 無我母
『ヘーヴァジュラ・タントラ』におけるヘーヴァジュラの配偶で、名は「無我の女」。仏教の根本教義そのものの人格化。サキャ派の祖ヴィルーパの夢に現れて道果の教えを授けたとされる。
解説
概要
ナイラートミヤーあるいはダクメマ(チベット語 bdag med ma)は、『ヘーヴァジュラ・タントラ』におけるヘーヴァジュラの配偶のダーキニーである。名は「無我の女」を意味する。
教義上の位置
ナイラートミヤー(無我)は仏教の根本教義の一つであり、この女尊はその教義そのものの人格化である。「無我の女」がヘーヴァジュラと抱擁することは、無我の智慧と方便の合一を表す。
『ヘーヴァジュラ・タントラ』は、無上瑜伽タントラのうち母タントラに属し、サキャ派において最も重視される。サキャ派の道果(ラムデー)の教えは、このタントラを中心に組み立てられている。
伝承
サキャ派の伝承によれば、ヴィルーパ——サキャ派の祖とされるインドの成就者——にナイラートミヤーが直接現れて道果の教えを授けたという。ヴィルーパはナーランダーの学僧であったが、ヘーヴァジュラの修法に成果を得られず、ナイラートミヤーが夢に現れて灌頂を授けたとされる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ナイラートミヤーの図である。
青い身色で、一面二臂、右手に鉞刀、左手に髑髏杯を持ち、左肩にカトヴァーンガを担う。単独で表されるときは、右足を上げて左足で立ち、踊る姿勢をとる。ヘーヴァジュラと抱擁するときは、十六臂八面四足のヘーヴァジュラの正面に配される。
教義の名を負う女尊という点が、この尊格を規定する。仏教の抽象的な教義が、女性の身体として現れ、瞑想の対象になる。
関わる神格・伝承
ヘーヴァジュラの配偶。ヴァジュラヨーギニーと同じ系列のダーキニー。
ヴィルーパの伝記を通じて、サキャ派の教えの起源に位置づけられる。
文化的足跡
サキャ派の寺院において、ヘーヴァジュラとナイラートミヤーの父母仏は主要な本尊として祀られている。
なおチベット仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。