ヘーヴァジュラ
ヘーヴァジュラ · 喜金剛 · 呼金剛
無上瑜伽タントラの母タントラに属する主要本尊で、配偶者はナイラートミヤー。八面十六臂四脚で、十六の髑髏杯に世界の要素を容れる。サキャ派の道果の教えの中心。元朝ではパクパがフビライに灌頂を授けた。
解説
概要
ヘーヴァジュラ(Hevajra、漢訳:喜金剛、呼金剛)は、タントラすなわち金剛乗仏教における主要なイダム(本尊)の一つである。配偶者はナイラートミヤーである。
歴史
『ヘーヴァジュラ・タントラ』は無上瑜伽タントラの母タントラに属し、8世紀後半(スネルグローヴ)から9世紀後半あるいは10世紀初頭(デイヴィッドソン)のあいだに東インド——おそらくカーマルーパ——で成立したと考えられる。
ターラナータは、サロールハとカンパラをその「もたらし手」として挙げる。成就者ヴィルーパが道の修行をしたとき、ナイラートミヤーが現れて灌頂を授けたという伝えは、サキャ派の教えの起源に置かれる。
チベットにおいて、ヘーヴァジュラの修法はとりわけサキャ派で重視される。サキャ派の根本の教え「道果」(ラムデー)は、このタントラを中心に組み立てられている。
中国とモンゴル
『ヘーヴァジュラ・タントラ』は北宋の法護によって漢訳され(1055年)、『大悲空智金剛大教王儀軌経』として大蔵経に収められた。ただし中国では広まらなかった。
元朝においては、パクパがフビライにヘーヴァジュラの灌頂を授けたとされ、この修法は元の宮廷で行われた。
図像と象徴
固有の図像は多いが、本サイトは主画像を掲げない。
八面十六臂四脚の姿が定型である。十六の手にそれぞれ髑髏杯を持ち、そのなかに象、馬、驢馬、牛、駱駝、人、獅子、猫(右手)、大地、水、火、風、月、日、死神、財神(左手)を容れる。ナイラートミヤーと抱擁して立つ。
十六の髑髏杯に世界の要素を容れるという造形は、この本尊が宇宙の全体を掌握することを表す。
「ヘー」は悲を、「ヴァジュラ」は智を表し、名そのものが悲智不二を示すと解される。
関わる神格・伝承
配偶者はナイラートミヤー。ヘールカの一。サキャ派の主要本尊。ヴィルーパに関わる。
文化的足跡
ヘーヴァジュラの立体曼荼羅と像は、チベット・ネパール・モンゴルの美術に多数残る。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。