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クラーケン
PLATE — KRAKEN
NORÐR · 北欧神話
KRAKEN

クラーケン

クラーケン · クラーケ · クラーク

ピエール・ドニ・ド・モンフォール画(1801年、彫版: エティエンヌ・クロード・ヴォワザール) PUBLIC DOMAIN

ノルウェー近海に現れるとされた巨大な海の怪物。18世紀の博物誌に記録され、船を引き込むと恐れられた。ダイオウイカの目撃が起源とする説が有力である。

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解説

概要

クラーケン(kraken)は、ノルウェー近海に現れるとされた巨大な海の怪物。島と見まがう体で海面に浮かび、船を巻き込んで沈めると恐れられた。

北欧神話の怪物ではない。『エッダ』にもサガにも、この名は現れない。文献に姿を見せるのは17世紀以降で、ノルウェーの漁民と船乗りのあいだで語られていた近世の伝承である。ただし中世の海獣譚とは糸がつながっており、13世紀のハーヴグーヴァがその先行例とされる。

名はノルウェー語の krake の定形(kraken=「そのクラーケ」)に由来する。krake の原義は「ねじれた木、不格好な木」で、古ノルド語 kraki(竿、鉤)に遡る。英語の crook と同根である。海面から突き出す腕を、水中から伸びる枯れ枝に見立てた命名と考えられている。

登場する物語

物語というより、報告である。

最初の記録は1646年、クリステン・イェンソンによるノルウェー方言集で、「クラケン」の項が立てられている。1700年にはイタリア人フランチェスコ・ネグリの旅行記が触れ、1734年、グリーンランドに渡った宣教師ハンス・エゲデが詳細な記述を残した。エゲデはこれを中世のハーヴグーヴァと同じものと見なしている。

決定的だったのは1753年、ベルゲンの司教エーリク・ポントピダンの『ノルウェー博物誌』である。ポントピダンはクラーケンを巨大なポリュプス(タコの類)とし、その大きさを一マイル半と記した。海面に浮かんだ姿は島に見え、上陸した船乗りが沈められる。潜るときに生じる渦が船を引き込む。ただし彼は、この怪物が漁場を豊かにするとも書いている——クラーケンの上には魚が群がるため、漁師はあえてその近くで網を打つ、と。恐怖の対象でありながら、漁の目印でもあるという扱いである。

19世紀に入ると、フランスの貝類学者ピエール・ドニ・ド・モンフォールが巨大頭足類の実在を主張し、アンゴラ沖で船を襲ったという話を図に描いた。彼はさらに、1782年にイギリス艦隊が失われたのは巨大タコの仕業だと唱え、これが行き過ぎとして学界の信用を失っている。

図像と象徴

クラーケンの図像史は、そのまま近世博物学の歩みと重なる。

最もよく知られるのがド・モンフォールの1801年の図である。巨大な腕が帆船のマストに絡みつき、船を海へ引き倒そうとしている。ただし作者自身はこれを「巨大タコ(poulpe colossal)」と題しており、クラーケンとは書いていない。今日この絵がクラーケンの代表図として流通しているのは、後世の混同による面がある。

図像の焦点は、時代とともに移った。中世のハーヴグーヴァは「島に見える巨体」であり、腕は語られない。ポントピダンに至って「角のような腕」が現れ、19世紀には無数の触腕が船を締め上げる姿になる。1861年にフランス艦アレクトンが巨大な頭足類と遭遇した報告以降、絵の中の怪物はますますイカとタコに似ていった。伝承の姿が、生物学の知見に引きずられて変わっていったのである。

関わる神格・伝承

先行例は前述のハーヴグーヴァ。13世紀ノルウェーの教訓書『王の鏡』が、島か岩礁と見まがう巨体を持ち、餌を吐いて魚を集める怪物として記す。中世のベスティアリに載るアスピドケローネ——背に島と見まごう鯨で、船乗りが火を焚くと沈む——とも型を共有する。

正体をダイオウイカ(Architeuthis)とする説が、今日では有力である。最大で全長十数メートルに達し、深海に棲むため滅多に浮上せず、死骸や瀕死の個体が海面に現れる。腕が水面から突き出す姿は、報告の記述とよく合う。1857年にヤペトゥス・ステーンストロップがダイオウイカを学術的に記載した際、クラーケン伝承との関係が明示的に論じられた。

ただし、伝承のすべてが一種の動物に還元できるわけではない。島と見まがう大きさ、渦を生む潜行、漁場を豊かにする性質——これらは頭足類の生態からは出てこない。海面に浮かぶ鯨、海底火山の噴出、蜃気楼など、複数の現象が同じ名のもとに集まったと見るのが妥当だろう。

文化的足跡

文学への影響は大きい。1830年のアルフレッド・テニスンのソネット『クラーケン』は、深海の底で太古から眠り、世界の終わりに一度だけ浮上して死ぬ怪物を描いた。ヴィクトル・ユゴーは1866年の『海に働く人びと』でガーンジー島の伝承の「ピューヴル」を登場させ、これをクラーケンと同定した。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』のノーチラス号を襲う巨大頭足類は、その延長線上にある。

現代では、映画やゲームで「海の巨大怪物」の代名詞となった。日本語圏で広く知られるようになったのも、こうした作品を通じてである。原典に照らせば、クラーケンは神話の怪物ではなく、実在の動物と誤認と船乗りの話術のあいだから生まれた、近世の産物である。それが今日、最も古典的な海の怪物として扱われているのは、皮肉と言えば皮肉である。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q193165 — 骨格データの出典
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Kraken — 図像カテゴリ