伊舎那天
いしゃなてん · いざなてん · イーシャーナ
十二天の一尊で東北(鬼門)を守護する。シヴァから派生した神格で、三目の忿怒相に三叉戟と髑髏杯を持ち牛に乗る。中世の神仏習合説で音の近さからイザナギと同一視された。
解説
概要
伊舎那天(梵 Īśāna)は、仏教の天部における天神の名である。欲界第六天(他化自在天)の主。
種子はイ。十二天の一。『十二天供儀軌』『大智度論』などでは大自在天の異名とされるように、シヴァから派生した神格である。
信仰
密教の胎蔵曼荼羅では、外金剛院の上首に位する。十二天においては東北の方角を守護する。
十二天は、八方(東・西・南・北・東北・東南・西北・西南)に上下と日月を加えた十二の方位の守護神である。伊舎那天は東北——鬼門——を守る。
日本における伝承
『壒嚢抄』に「ある説には、第六の魔王とは伊舎那天の事なり、即ち伊佐那岐尊、これなり」とあり、北畠親房の『神皇正統記』によると「ある説にイザナギ・イザナミは梵語なり、伊舎那天伊舎那后なりともいう」とある。
伊舎那と伊佐那岐の音の近さから、中世の神仏習合説において両者が同一視された。仏教の天部が日本神話の創造神と重ねられた例である。
伊舎那后(Īśānī)は、伊舎那天の后妃である。『秘蔵記』に「伊舎那天后。肉白色。持鉾」と記される。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、永厳筆の伊舎那天図である(1139年)。
一面三目二臂の忿怒相、持物は右手に三叉戟、左手に血を入れた髑髏杯を持ち、牛に乗る姿につくられる。三つ目、三叉戟、牛——いずれもシヴァの図像を受け継いでいる。
関わる神格・伝承
シヴァから派生。大自在天と異名の関係。十二天の一尊。
イーシャーナはヒンドゥー教においてシヴァの五面の一つ(上面)の名であり、東北の方位の守護神でもある。仏教の伊舎那天がこの方位を守るのは、ヒンドゥー教の方位神の配置を引き継いでいる。
文化的足跡
日本では鬼門を守る神として、またイザナギとの習合説を通じて、中世の神仏習合思想において独特の位置を占めた。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。