エテュゲン・エケ
エテュゲン・エケ · イテュゲン · エテュゲン・エヘ
テングリ信仰における大地の女神で「母なる大地」を意味する。天のテングリと対をなす。永遠に処女とされ、遊牧民が大地を耕さず掘ることを禁じた観念に対応する。名は突厥の聖山エテュケンに由来する可能性がある。
解説
概要
エテュゲン・エケ(「母なる大地」)は、チュルクやモンゴルの人々の信仰における大地の女神で、天の神テングリと対をなす。永遠に処女であるとされ、名は古代チュルクの人々の聖なる山エテュケンに由来する可能性がある。大地を耕さない遊牧の人々にとって、大地は実りを与える母である以上に、傷つけてはならないものであった。
なお本サイトの分類では、モンゴル・シベリアの体系に含めて扱う。
天と地のあいだの人
天のテングリと、大地のエテュゲン・エケは、一対をなす。8世紀のオルホン碑文は、「上に青き天、下に褐色の大地が造られたとき、その二つのあいだに人の子が造られた」と記している。人は、天と地のあいだに置かれた存在なのである。天を父、地を母とする対は、インド・ヨーロッパ語族の人々にも広く見られるが、チュルク系やモンゴル系の言葉はこれとは別の語族に属する。この対応が独立に生まれたものか、接触によるものかは定まっていない。
聖なる山エテュケン
古代チュルクの人々の聖地エテュケンは、モンゴル高原のハンガイ山脈にあったとされる。突厥の可汗はここに本営を置き、この地を治めることが、草原全体を治めることを意味した。オルホン碑文は、「エテュケンの山に留まれば、汝らの国は永く続く」と刻み、中国の都市に住めば国は滅びると戒めている。定住への警戒が、聖地の教えとして記されているのである。
傷つけてはならない大地
エテュゲン・エケは処女とされる。遊牧の人々は大地を耕さず、鋤を入れることは大地を傷つけることと考えられた。モンゴル帝国の法令(ヤサ)には、大地を掘ることや水を汚すことを禁じる定めが含まれていた。農耕の人々の大地の母神が実りを与える存在であるのに対し、遊牧の人々の大地は、傷つけてはならない存在だったのである。暮らしの営みが、禁忌の形を決めている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。石を積み上げた塚オボーが、土地の霊を祀る場となっており、通りかかる人は石を一つ加え、塚のまわりを三度めぐる。
関わる神格・伝承
テングリと対をなし、ウマイや大地の神イェル・タンルと重ねられることがある。
文化的足跡
「エテュゲン」の語は、今日のモンゴル語でも、大地を指す詩的な言葉として使われている。
なおモンゴル・シベリアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。