サガーン・ウブグン
ツァガーン・ウブグン · 白い長老 · 白い老人
モンゴル・ブリヤート・カルムイクの長寿と豊かさの神「白い老人」。仏教以前からの大地と水の主で、釈迦に出会って衆生の守護を誓ったとされる。モンゴルの仮面舞踊チャムでは、竜頭の杖をつく道化の役で親しまれる。
解説
概要
サガーン・ウブグン(ブリヤート語。モンゴル語ではツァガーン・ウブグン、いずれも「白い老人」の意)は、モンゴル、ブリヤート、カルムイクの人々が祀る長寿と豊かさの神である。白い衣をまとった白い髭の禿げ頭の老人の姿で表され、竜の頭をかたどった杖を手にする。大地と水を治め、家畜と実りを増やし、人の寿命を延ばすとされて、「大地の白い老人」とも呼ばれる。もとは仏教が伝わる以前からの土地の神で、のちにチベット仏教の祭祀のなかに居場所を得た。
なお本サイトの分類では、モンゴル・シベリアの体系に含めて扱う。
釈迦との出会い
仏教への取り込みは、一つの出会いの物語として語られる。釈迦が弟子たちと歩いていたとき、白い老人に出会い、何者かと尋ねた。老人が、大地と水を治め、善き者に報い悪しき者を懲らす自らの務めを語ると、釈迦はその知恵を認め、生きとし生けるものを守り助けるよう誓わせたという。土地の神が仏の承認を得て守護者となる、仏教の広まった地域に多い型の物語である。
この話はモンゴル語の経典『白い老人の経』に収められ、18世紀には内モンゴルの学僧メルゲン・ゲゲーンが、白い老人に香を供える祈祷文を著した。カルムイクでは「白い祖父」(ツァガン・アーヴ)と呼ばれ、年長の男たちがその画像を囲んで経を読み、乳に浸した枝で献酒しながら故郷の山や川の名を唱える儀礼が伝えられている。
仮面舞踊チャムの道化
チベットに起源をもつ仏教の仮面舞踊チャムがモンゴルで演じられるとき、白い老人はモンゴルのチャムにしかない役として登場する。笑みを浮かべた仮面をつけ、白装束で竜頭の杖をついた老人が、忿怒尊たちの舞の合間に観客とやりとりし、とぼけたしぐさで笑いを誘う。この仮面は、モンゴルのチャムを代表する作例の一つとされる。
大地の女神の配偶
一部の伝えでは、白い老人は母なる大地エテュゲン・エケ(イトゥゲン)の配偶とされる。実りをもたらす老人と、大地そのものである女神とを一対にみる考え方である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カルムイキア共和国の首都エリスタにある白い老人の像である。
絵画では、白髭の老人が岩に坐し、竜頭の杖を持ち、鹿や鶴、松や桃といった長寿のしるしを伴う姿で描かれることが多い。この姿は中国の寿老人(南極老人)とよく似ており、チベットのペハルに似せて描かれることもある。長寿の白髭の老人という造形は、中国からモンゴル、日本にかけて共有されている。
関わる神格・伝承
母なる大地エテュゲン・エケの配偶とする伝えがある。図像は寿老人・ペハルと近い。
文化的足跡
白い老人の祭祀は、モンゴル、ブリヤート、カルムイクで今も続いている。社会主義の時代に途絶えたモンゴルのチャムは2000年代以降に各地の寺で復活し、白い老人も再びその舞台に立っている。
なおモンゴル・ブリヤート・カルムイクの仏教とシャーマニズムは、今日も継承されている生きた信仰である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。