エパポス
エパフォス · アピス · ムーナンティウス
ゼウスとイーオーの子でエジプトの王。名は「触れること」を意味し、ゼウスの手が触れて身ごもったという受胎の様態そのものが名になっている。
解説
概要
エパポス(Ἔπαφος、「触れること」「触れられた者」)は、ギリシア神話の人物である。ゼウスの子にしてエジプトの王とされる。
アピス、ムーナンティウスの名でも呼ばれる。
神話・物語
母はイーオーである。名が示すとおり、ゼウスの手が触れることによって身ごもったとされる。
生まれた場所については資料が分かれる。ストラボーンはエウボイアのボオーサウレーの洞窟だとし、他の資料は母の長い放浪ののち、エジプトのナイル川のほとりだとする。
生後、ヘーラーの求めによってクーレーテスに隠された。イーオーはこれを探し、のちにシリアで見つける。そこでビュブロス王の妻に養われていた。
パエトーンとの争いも伝えられる。エパポスはこの同時代人であり好敵手であった。ヘーリオスとクリュメネーの子であるという家系を嘲り、太陽神の子であることを疑ったのである。この侮辱がパエトーンに父の車を御させ、破滅を招いた。
妻メンピス(他の資料ではカッシオペイア)とのあいだに娘リビュエーをもうけた。もう一人の娘リュシアナッサを加える資料もある。これらの娘たちはポセイドーンとの子——ベーロス、アゲーノール、そしておそらくレレクス——の母となり、後者からはブーシーリスが生まれた。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
名がこの人物のすべてを語っている。エパポスは「触れること」を意味し、ゼウスの手が母に触れることで生じたという受胎の様態そのものが名になっている。牝牛に変えられていたイーオーが、触れられることによって人に戻り、子を得るという筋である。
エジプトの王とされること、そして別名がアピスであることも見逃せない。エジプトの聖牛アピスと同じ名を負い、牝牛に変えられた女の子である。ギリシア人がエジプトの牛の祭祀を自らの神話に取り込んだ痕跡と読まれてきた。
系譜と関係
父はゼウス、母はイーオー。妻はメンピス、娘はリビュエー。
この系譜は、ギリシア人が地中海世界の諸民族の起源を説明するために用いた枠組みである。エパポスの子孫として「黒きリビュア人、高き魂のアイティオピア人、地下の民、そして弱きピュグマイオイ」が挙げられる。異民族の起源を一つの家系に収めるという発想が、そこにはある。
文化的足跡
アイスキュロス『救いを求める女たち』は、エパポスの子孫であるダナオスの娘たちがエジプトからアルゴスへ逃れる物語を扱う。イーオーの放浪とエパポスの誕生が、この劇の前提をなしている。
日本語圏では、イーオーの放浪譚の結末として名が挙げられる程度である。しかしギリシアとエジプトを系譜でつなぐ結節点として、この人物は神話体系の地理的な広がりを支えている。