ケモシュ
ケモシュ · カモシュ · Chemosh
モアブの至高神。前9世紀のメシャ碑文は、イスラエルからの独立の勝利をこの神の助けに帰し、敵を滅ぼし尽くして捧げる実践を記す。旧約聖書と同じ形式で敵対する民族が自らの神への帰功を記した、決定的に重要な聖書外資料である。
解説
概要
ケモシュは、レヴァントの青銅器時代と鉄器時代に、死海の東——現在のヨルダン——のモアブとして知られる地域を占めた古代セム語系の諸民族によって崇拝されたカナンの神格である。
ケモシュはカナンの国家モアブの至高の神格であり、その住民モアブ人の守護神であった。
なお本サイトの分類では、フェニキア/カナンの体系に含めて扱う。
メシャ碑文
1868年、ヨルダンのディーボーンで、モアブ語の碑文が発見された。
メシャ王。 前9世紀のモアブ王メシャが、イスラエルからの独立を記念して刻ませたものである。
ケモシュへの帰功。 碑文は、勝利をケモシュの助けに帰す。
「ケモシュが私に言った、『行け、イスラエルからネボを取れ』。……私は夜のあいだに行き、明けから昼まで戦い、これを取り、すべてを殺した」
ヘレム。 敵をすべて殺して神に捧げる「ヘレム」(滅ぼし尽くす奉献)の実践が記される。
旧約聖書との対応。 同じ実践が、旧約聖書のヘブライ人の記述にも見られる。
同じ形式の宗教。 敵対する二つの民族が、同じ形式で自らの神への帰功を記す。
碑文は、聖書外の資料として旧約聖書の記述と対応する数少ない例であり、古代イスラエル史の研究において決定的な重要性を持つ。
王の子の犠牲
『列王記下』3章に、モアブ王が包囲されたとき、長子を城壁の上で焼いて捧げたという記述がある。
イスラエル軍の撤退。 これののち「大いなる怒りがイスラエルに臨んだ」ため、包囲軍は退いた。
敵の神の力を認める記述。 旧約聖書が、他神への犠牲が効果を持ったと読める形で記している珍しい箇所である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、モアブの戦士の像である(ルーヴル美術館蔵 AO5055)。
アシュタル・ケモシュ。 メシャ碑文には「アシュタル・ケモシュ」の名も現れる。アスタルトと結びついた形とみられるが、詳細は不明である。
関わる神格・伝承
モアブの国家神。ミルコム(アンモン)、コース(エドム)と並ぶ、ヨルダン東岸の民族神。
文化的足跡
メシャ碑文(モアブ石碑)は、ルーヴル美術館に収蔵されている。発見時に地元住民によって破砕されたが、事前に取られた紙型によって復元された。