カリュブディス
カリブディス · カリュブデュス · Kharybdis
ギリシア神話の海の怪物。一日に三度、海水ごとあらゆるものを呑み込み吐き出す渦潮の化身。海峡の対岸に構えるスキュラと対をなす。
解説
概要
カリュブディス(Χάρυβδις / Kharybdis)は、渦潮を神格化したギリシア神話の怪物である。ホメーロス『オデュッセイア』第12巻では、狭い水路の一方の岸に彼女が、他方の岸にスキュラが構える。一日に三度、黒い海水を呑み下し、三度吐き出す。呑まれれば船ごと失われる。
姿の描写はほとんどない。スキュラが六つの頭と十二の足という具体をもって語られるのに対し、カリュブディスは動作としてしか描かれない。渦そのものを擬人化した神格であることが、この差に表れている。
登場する物語
オデュッセウスはキルケーの助言に従い、全滅を避けるためスキュラの側を選んで通過する。ただし彼はこの海峡を二度通っている。ヘーリオスの牛を食った報いで船を失ったあと、漂う竜骨にすがって流れ着いた二度目には、岩壁に生えた無花果の枝にぶら下がり、呑まれた竜骨が吐き出されるのを待って再び乗った。
アポローニオス『アルゴナウティカ』では、アルゴー船はヘーラーに頼まれたテティスとネーレーイスたちに手渡されるように運ばれ、この海域を抜ける(アルゴナウタイ)。
由来を語るのは後代の注釈である。もとはポセイドーンとガイアの娘だったが、並外れた大食のためにヘーラクレースが連れていたゲーリュオーンの牛を盗み食いし、ゼウスの雷に撃たれて海に落とされ、怪物になったとする。ホメーロス自身は出自にまったく触れない。
図像と象徴
古代美術にカリュブディスの図像は事実上存在しない。渦は形を持たず、擬人化しても画面に定着しない。スキュラが陶画・石棺・モザイクに繰り返し現れるのと対照的で、同じ海峡の二つの危険が、図像化のしやすさによってまったく違う扱いを受けた。本ページに主画像を置いていないのはこのためである。
ルネサンス以降の絵画・版画では、渦巻く海面と傾く船として描かれる。人格ではなく現象として表す点は、古代から変わっていない。
関係する神格・退治した英雄
ポセイドーンとガイアの娘とする伝えのほかは、出自を語らない伝承が多い。対峙した英雄はオデュッセウス。ヘーラクレースは、彼女が怪物に変えられる原因を間接的に作った者として名が挙がる。討伐された記録はなく、地形そのものである以上、退治のしようがない。
文化的足跡
「スキュラとカリュブディスのあいだ」は、二つの危険のいずれも避けられない板挟みを指す慣用句として西欧の諸言語に定着した。海峡はイタリア半島とシケリアを隔てるメッシーナ海峡に比定されるのが通例で、同海峡には潮流の干渉によるガロファロと呼ばれる渦が実際に生じる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。