チャクラサンヴァラ
チャクラサンヴァラ · 勝楽金剛 · サンヴァラ
無上瑜伽の母タントラの主尊で、配偶者はヴァジュラヴァーラーヒー。シヴァ派カーパーリカ系と二十四聖地・髑髏の装身具などを共有し、バイラヴァを踏む図像はその取り込みと優越の主張を示す。カギュ派とサキャ派で重視。
解説
概要
チャクラサンヴァラ(Cakrasaṃvara、漢訳:勝楽金剛)は、影響力の大きい仏教のタントラ、およびその主尊の名である。デイヴィッド・B・グレイによれば、『チャクラサンヴァラ・タントラ』は8世紀後半から9世紀初頭に成立したとされる。
グレイの訳が用いた梵語写本における完全な題は「シュリー・チャクラサンヴァラという名のヨーギニー・タントラの大王」である。この文献は「シュリー・ヘールカの言説」「サンヴァラの光」とも呼ばれる。
「チャクラサンヴァラ」は、このタントラの主尊、およびその修法の系統をも指しうる。
教義上の位置
無上瑜伽タントラの母タントラに属し、チベット仏教のすべての宗派で修されるが、とりわけカギュ派とサキャ派で重視される。
主尊チャクラサンヴァラはヘールカの一形態であり、配偶者はヴァジュラヴァーラーヒー(あるいはヴァジュラヨーギニー)である。
シヴァ派との関係
チャクラサンヴァラのタントラは、シヴァ派のカーパーリカ系のタントラと多くの要素を共有する。二十四の聖地(ピータ)、髑髏の装身具、火葬場の修行——これらはシヴァ派の実践と重なる。
学術的な議論において、仏教のタントラがシヴァ派のタントラを取り込んだのか、両者が共通の基層から発したのかが論じられてきた。今日では、仏教側が意図的にシヴァ派の枠組みを取り込み、これを仏教の教義で読み替えたとする見方が有力である。
チャクラサンヴァラがバイラヴァ(シヴァの憤怒相)とその配偶者を踏みつける図像は、この取り込みと優越の主張を示している。
図像と象徴
固有の図像は多いが、本サイトは主画像を掲げない。
四面十二臂の青い身色で、ヴァジュラヴァーラーヒーと抱擁して立つ。虎皮の腰布、髑髏の冠、象の皮を背に負う。足下にバイラヴァとカーラーラートリを踏む。
六十二尊からなる曼荼羅が知られ、二十四の聖地に配された神々が周囲を囲む。
関わる神格・伝承
ヘールカの一形態。配偶者はヴァジュラヴァーラーヒー。バイラヴァを踏む。
文化的足跡
チャクラサンヴァラの曼荼羅は、チベット美術の主要な主題の一つであり、砂曼荼羅としても制作される。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。