薬王菩薩
やくおうぼさつ · バイシャジヤラージャ · 一切衆生喜見菩薩
薬上菩薩と兄弟で人々に薬を与えた功徳により菩薩となった。釈迦如来の脇侍。法華経では前世に自ら焼身して仏を供養し千二百年燃え続けたと説かれ、東アジアの焼身供養の典拠となった。
解説
概要
薬王菩薩(梵 Bhaiṣajyarāja)とは、仏教で信仰される菩薩の一尊。薬上菩薩とともに釈迦如来の脇侍として付き従う。また阿弥陀如来の二十五菩薩にも数えられる。
薬上菩薩とは兄弟であったとされ、人々に薬を与えた功徳により双方が菩薩になることができたという。一般的には薬壷と薬草を手に持つ姿で表される。
法華経
『法華経』薬王菩薩本事品では、薬王菩薩の前世は一切衆生喜見菩薩といい、日月浄明徳如来の弟子だった。この仏より法華経を聴き、願って苦行し、現一切色身三昧を得て、歓喜して仏を供養し、ついに自ら香を飲み、身体に香油を塗り焼身した。諸仏は讃嘆し、その身は千二百歳まで燃えたという。
命終してのち、また同じ日月浄明徳如来の国に生じ、浄徳王の子に化生して大王を教化した。再びその仏を供養せんとしたところ、仏が今夜に般涅槃することを聞き、仏より法および諸弟子、舎利などを附属せられた。仏入滅後、舎利を供養せんとして自らの肘を燃やし、七万二千歳にわたって供養したという。
妙荘厳王本事品では、昔、雲雷宿王華智如来の出世時に、妙荘厳王と浄徳夫人に浄蔵と浄眼の二子があり、浄蔵が今の薬王菩薩、浄眼が今の薬上菩薩、それぞれの前世であることを説いている。
図像と象徴
固有の図像は存在するが、本サイトは主画像を掲げない。
薬壷と薬草という持物が、この菩薩を規定する。薬師如来が薬壷を持つのと同じく、病を癒す仏の系列に属する。
焼身供養という主題が、この菩薩の物語の核心である。自らの身体を燃やして仏を供養するという行為は、東アジアの仏教において実際の焼身の典拠とされた。ベトナム戦争下の1963年、僧ティック・クアン・ドックの焼身抗議は、この品を典拠とすると解された。
関わる神格・伝承
兄弟は薬上菩薩。釈迦如来の脇侍。阿弥陀の二十五菩薩の一。
法華経において薬王菩薩は、法華経を受持する者の功徳を説く章の主役であり、日蓮宗で重視される。
文化的足跡
薬王菩薩本事品は、法華経のなかでも焼身供養の激しさで知られ、東アジア仏教史における身体の供犠の観念を考えるうえで繰り返し参照される。
なお仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。