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バアラト・ゲバル
PLATE — 𐤁𐤏𐤋𐤕 𐤂𐤁𐤋
PHOENICIAN · フェニキア・カナン神話
𐤁𐤏𐤋𐤕 𐤂𐤁𐤋

バアラト・ゲバル

バアルティス · ベーレト・ビュブロス · Baalat Gebal

イェハウミルク王の石碑(前450年頃、ビュブロス出土、ルーヴル美術館蔵 AO 22368)/撮影: Zunkir, CC BY-SA 4.0 CC BY-SA 4.0

「ビュブロスの女主」を意味する交易都市ビュブロスの守護女神。エジプト人はこれを「ビュブロスのハトホル」と呼び、牛の角と日輪を戴く姿で描いた。フェニキアの女神がエジプトの図像で表される、交易による神の姿の伝播の例。

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解説

概要

バアラト・ゲバル(フェニキア語 bʿlt gbl、「ゲバルの女主」)は、地中海東岸の港市ビュブロス(フェニキア語でゲバル、現レバノンのジュベイル)の守護女神である。前3千年紀から祀られ、ビュブロスの王たちは代々この女神を王権の守り手として仰いだ。名は「女主」という称号に都市名を添えた形だが、ほかの名で呼ばれることはほとんどなく、ビュブロスにおいては事実上この女神の固有の名として機能していた。

ビュブロスは古王国時代からエジプトと深く結ばれた都市で、レバノン杉や樹脂をエジプトへ送り、パピルスなどを受け取った。ギリシア語でパピルスの巻物を「ビブロス」と呼ぶのはこの都市の名に由来する。女神の祭祀も、この交易の歴史と切り離せない。

神話・物語

女神を主人公とする物語は伝わらない。記録の多くは、王や外国の支配者が女神に呼びかけ、捧げ物をした文書である。

前14世紀のアマルナ文書では、ビュブロスの王リブ・アッディが、ファラオに援軍を求める数十通の書簡のなかで繰り返し「ビュブロスの女主」の加護を祈っている。鉄器時代には、イェヒミルク、エリバアル、シピトバアルらビュブロスの王が女神への奉献の碑文を残した。前5〜4世紀のイェハウミルク王の石碑は、王が女神のために青銅の祭壇や門を造り、その見返りに長命と治世を願ったことを記す。

ビュブロスの神殿の起源について、ビュブロスのフィロンはギリシア風の名で語る。クロノス(エール)が都市ビュブロスを女神バアルティスに与え、この女神をディオーネーとも呼ぶという。ローマ時代のルキアノスはビュブロスに大きなアプロディーテー神殿があったと記し、そこではアドーニスの死を悼む祭が行われていたと伝える。

プルタルコス『イシスとオシリスについて』には、オシリスの遺体を納めた箱がビュブロスに流れ着き、王宮の柱に収められていたという話がある。ただしプルタルコスは王妃をアスタルテと呼んでおり、この挿話をバアラト・ゲバルの神話として読むことはできない。エジプトの神話がビュブロスを舞台に選んだこと自体が、両者の結びつきを物語っている。

図像と象徴

女神の姿は、エジプトのハトホルの様式で表された。最もよく知られる作例が、本サイトが主画像に掲げるイェハウミルク王の石碑(前450年頃、ルーヴル美術館蔵 AO 22368)である。上部の浮彫で、王は玉座に座る女神の前に立って杯を捧げる。女神は牛の角のあいだに日輪をはさんだ冠と、禿鷲の頭飾りをつけ、手にはパピルスの形の笏を持つ。フェニキアの王の奉献碑でありながら、神の姿はエジプトの図像の語彙で語られている。

エジプトではこの女神は「ビュブロスの女主ハトホル」の名で知られた。ビュブロスで発掘された女神の神殿跡は前3千年紀にさかのぼり、古王国時代以来のファラオの名を刻んだ奉納品が出ている。

系譜と関係

親や配偶神ははっきりしない。フィロンの伝えでは、バアルティス=ディオーネーはクロノスの姉妹で妻の一人とされるが、これはギリシアの神統記に合わせた構図である。

エジプトではハトホルと同一視され、のちにはイシスにも重ねられた。ギリシアではアプロディーテーに当てられ、ビュブロスのアドーニス祭祀と結びついた。フェニキアの大女神アスタルトと同一視されることもあるが、ビュブロスの文書は一貫して女神を「ゲバルの女主」と呼び、アスタルトの名を用いない。

文化的足跡

ビュブロスの遺跡は1984年にユネスコの世界遺産に登録された。女神の神殿跡と、その周囲から出た奉納品や王の碑文は、フェニキア文字の成立史を考える上でも欠かせない資料となっている。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ハトホル エジプト神話 同一視
エジプトの資料で「ビュブロスの女主ハトホル」と呼ばれ、図像もハトホルの様式で表された
アプロディーテー ギリシア神話 同一視
ルキアノスほかギリシア語の著述家がビュブロスの女神をアプロディーテーと呼ぶ
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資料

Wikidata
Q2223705 — 骨格データの出典