アウセクリス
アウセクリス · Auseklis
ラトビアの星辰の神格で、サウレとメーネスに次ぐ人気を持つが、中世の文献には名がなく民謡にのみ現れる。天の婚礼に求婚しながら「ドイツの地で黄金の門を鍛えていた」と言って現れなかった。その八芒星は民族的抵抗の徴となった。
解説
概要
アウセクリスは、ラトビアの民謡に歌われる星の神である。明けの明星と重ねられることが多いが、金星そのものとは別の存在である可能性も指摘されている。ラトビアの天体の神々のなかでは、太陽の女神サウレと月の神メーネスに次いでよく登場するが、その名が伝わるのはほとんど民謡のなかだけである。
なお本サイトの分類では、バルト神話の体系に含めて扱う。
民謡のなかだけの神
ラトビアでキリスト教が異教に取って代わったのは12世紀以降のことだが、中世の文献にアウセクリスの名は見えない。この神が知られるのは、19世紀に採集された民謡(ダイナス)を通じてである。クリシャーニス・バロンスが編んだ『ラトビアのダイナス』(1894〜1915年)には二十万篇以上が収められ、バルトの神々の理解はこの民謡集に大きく依っている。ただし一篇は四行ほどの短い詩であり、まとまった物語ではなく、断片的な言及が積み重なっているにすぎない。
天の婚礼
ラトビアの民謡には、天体たちの婚礼という主題が繰り返し現れる。サウレの娘をめぐって神々が求婚し、アウセクリスもその一人となるが、婚礼の日に姿を見せない。なぜ来なかったのかと問われて、彼は「ドイツの地で黄金の門を鍛えていた」と答える。雷神ペルコンス(リトアニアのペルクナス)はこれに怒って樫の木を裂いた。空に並ぶ星々の配置と動きが、婚礼をめぐるいさかいとして歌われている。
星の文様から民族の象徴へ
「アウセクリスの星」と呼ばれる八角の星形の文様があり、家や衣服、道具に刻まれて災いを退けると信じられた。19世紀以降この文様はラトビアの民族的な象徴として用いられ、ソ連の占領下では民族の抵抗を示す徴となった。今日では国家の意匠にも使われている。古い護符の文様が、近代の政治的な象徴へと役割を変えた例である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アウセクリスの星の意匠である。
関わる神格・伝承
リトアニアの明けの明星アウシュリネーに対応し、サウレ、メーネスとともに天体の神々をなす。
文化的足跡
アウセクリスの八芒星は、今日もラトビアの工芸と装飾に広く用いられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。