アウゲイアース
アウゲイアス · アウゲアス · Augeas
三千頭の家畜を三十年掃除しなかった厩舎の持ち主であるエーリス王。ヘーラクレースが川の流れを付け替えて清掃したが、約束の報酬を払わず討たれた。
解説
概要
アウゲイアース(Αὐγείας、「輝く者」)は、ギリシア神話のエーリス王である。
国じゅうで最も多くの家畜を収めながら、一度も掃除されたことのない厩舎の持ち主として知られる。ヘーラクレースの第五の功業が、この厩舎の清掃であった。
そこから派生した形容詞アウゲイアーン(augean)は、著しく荒れた状態を改善するという困難な仕事を指す語として英語に残っている。
神話・物語
系譜は資料によって異なる。ヘーリオスとナウシダメーあるいはイーピボエーの子とするもの、エーレイオスの子とするもの、ポセイドーンの子とするもの、そしてポルバースとヒュルミネーの子とするものがある。子にはエピカステー、ピューレウス、アガメーデー、アガステネース、エウリュトス、アンブラキアがいる。
エウリュステウスは、この清掃を屈辱的かつ不可能な課題として与えた。それまでの功業が誉れあるものであったのに対し、糞の掃除は名誉に乏しい。しかも家畜は神の恵みによって健やか——すなわち不死——であり、それゆえ厖大な量の糞を出していた。三千頭が三十年以上も掃除されていない厩舎に住んでいたのである。
ヘーラクレースはアルペイオス川とペーネイオス川の流れを付け替え、汚れを洗い流すことで成し遂げた。
アウゲイアースは怒った。家畜の十分の一を報酬として約束していたにもかかわらず、これを払わなかったのである。ヘーラクレースはのちにエーリスに攻め入り、この王を討った。
図像と象徴
固有の図像はほとんど伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。厩舎の清掃を描いた古代の作例は、他の功業に比べて著しく少ない。
功業のなかでこの一つだけが、怪物退治でも捕獲でもなく労働である点に注意がいる。しかもエウリュステウスは、それが屈辱であることを意図していた。英雄が手を汚す仕事を課されるという構図が、この挿話の眼目である。
そして川を付け替えるという解決も特徴的である。自らの手で掃除するのではなく、水路を変えて自然に洗わせる。エウリュステウスはこれを「川が働いたのだから功業として認めない」として数に入れなかったとする伝えもある。
関わる神格・伝承
課したのはエウリュステウス、果たしたのはヘーラクレース。父はヘーリオスとする伝えが有力で、その場合「輝く者」という名も太陽神の子であることに対応する。
報酬の不払いという点では、ラーオメドーンと同じ型に属する。ヘーラクレースは二度、約束を破られて後に報復している。
文化的足跡
英語の Augean stables(アウゲイアースの厩舎)は、長年放置された腐敗や混乱を指す比喩として定着した。政治や制度の抜本的な改革を語る文脈で、今日も用いられる。
日本語圏では、ヘーラクレースの十二の功業の一つとして紹介される。ただしその報酬をめぐって後に戦争が起きたことまで語られることは少ない。