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アルゴス(オデュッセウスの犬)
PLATE — ἌΡΓΟΣ
HELLAS · ギリシア神話
ἌΡΓΟΣ

アルゴス(オデュッセウスの犬)

アルゴス · アルゴス (犬) · Argos

Sussex Archaeological Society / Portable Antiquities Scheme CC BY 2.0

『オデュッセイア』でオデュッセウスの帰還を二十年待った犬。変装した主人を唯一ひと目で見分け、その直後に息絶えた。

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解説

概要

アルゴス(Ἄργος / Argos)は、ホメーロス『オデュッセウス』の帰還譚に現れる犬である。トロイア戦争へ発つ前、主人が自ら猟犬として育てた。二十年ののちイタケーに戻った主人を、変装したままの姿でただひとり見分け、その直後に息絶える。

オデュッセイア』全編でも最も知られた場面の一つであり、西洋文学における最も心を打つ数行と評されてきた。

登場する物語

名はギリシア語の形容詞アルゴス(ἀργός)に由来する。「輝く白」「見事な」を字義とし、比喩的には「素早い」を意味する。ホメーロスはこの語を足の速い犬一般の形容として用いており、印欧祖語 *h₂rǵ-ró-s(「白い、輝く」)に遡るとされる。ラテン語の argentum(銀)、ヒッタイト語の「白い」と同根であり、船アルゴーの名も速さを表すこの語に連なる。百の目を持つ巨人アルゴス・パノプテースも同じ名で、ある伝えではもと番犬だったともいう。

物語の場面はこうである。二十年ののちイタケーへ帰ったオデュッセウスは、アテーナーによって老いた物乞いの姿に変えられ、豚飼いエウマイオスに伴われて王宮へ向かう。その道すがら、糞の山の上に横たわり蚤に蝕まれた老犬が、主人の声を聞き分けて頭をもたげた。耳を垂れ、尾を振る。だが体は重く、近づく力は残っていない。

物乞いを装う主人は、駆け寄ることも名を呼ぶこともできない。ただ顔を背けて涙を拭い、エウマイオスに「なぜこれほど見事な犬が糞のなかに寝ているのか」と尋ねる。豚飼いは、かつては並ぶもののない猟犬だったこと、主人が死んだと思われてからは誰も世話をしなくなったことを語る。二人が館へ入っていくと、アルゴスは息を引き取った。

この短い場面が繰り返し論じられてきたのは、いくつかの理由による。第一に、オデュッセウスが自らの家で受ける一連の「認知」(アナグノーリシス)の口火を切る場面でありながら、神の助けも証拠の提示もなしに互いを認め合うのはこの一度だけである。乳母エウリュクレイアは足の傷を、妻ペーネロペーは寝台の秘密を、父ラーエルテースは果樹の記憶を必要とした。犬だけが、何も要らなかった。

第二に、この場面は本来あるべき客人歓待(クセニアー)の反転として読まれる。主人が自らの家の前で物乞いとして立ち、家財は求婚者たちに食い潰され、猟犬は糞の上に打ち捨てられている。犬の荒廃が家(オイコス)の荒廃そのものを映す。

第三に、語りの技法である。アルゴスの死を告げる際、語り手は「二十年目に」という句を用いる。これはオデュッセウスが正体を明かす場面や、その不在の重さを強調する場面で繰り返される表現である。またこの場面のオデュッセウスは「その主人」(ἄναξ)という迂言で呼ばれ、あたかも犬の視点から語られているかのように読める。戦士の高貴な死を語るのと同じ言葉遣いが、一匹の老犬に用いられていることになる。

図像と象徴

古代の作例は乏しいが、確実なものが一点ある。本項に掲げた前82年のローマ共和政期のデナリウス銀貨(C・マミリウス・リメタヌス発行、鋸歯縁)で、裏面には杖を持って歩むウリクセース(オデュッセウス)が右手を犬へ差し伸べる図が刻まれ、C MAMIL / LIMETAN の銘が添えられている。マミリウス氏族はオデュッセウスの子テーレゴノスの末裔を称しており、貨幣に自家の由緒を刻んだものである。再会の場面が政治的な自己主張の道具として用いられた例であり、この挿話が古代においてどれほど広く知られていたかを示す資料でもある。

壺絵にこの場面が選ばれることはほとんどなかった。動きに乏しく、しかも主人公が変装しているため、絵で示すのが難しかったのだろう。マルセイユの石棺蓋にオデュッセウスと犬を見る説もあるが、確定していない。

近世以降、この場面は挿絵と絵画の主題として繰り返し取り上げられた。フラクスマンの線描、アングルの素描などが知られる。旧来この項に掲げられていた1905年の書物挿絵もその系譜に属するが、古代の作例が存在する以上、そちらを優先した。

関係する神格・退治した英雄

主人はオデュッセウス。育ての手を離れたのちはエウマイオスら召使いの管理下に置かれたが、実際には放置された。テーレマコスペーネロペーと同じ家に属しながら、彼らより先に主人を認めた存在である。

文化的足跡

忠犬の原型として、西洋では広く引かれてきた。日本でも忠犬の物語と並べて語られることがあるが、アルゴスの挿話の要点は、忠誠そのものよりも、再会が果たされないまま死ぬという一点にある。主人は名乗ることができず、犬は撫でられることなく死ぬ。この非対称が、この十数行を古代文学のなかでも際立ったものにしている。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q519334 — 骨格データの出典
Commons
Argos (dog) — 図像カテゴリ