アパム・ナパート
アパーム・ナパート · ブルズ · アフラ・ベレザント
「水の子」を意味する、インド・イラン共通の水の神格。ゾロアスター教ではアフラ三柱の一に数えられ、海から各地へ水を配り、王権の光輝を保つとされる。
解説
概要
アパム・ナパート(アヴェスター語 apąm napāt、サンスクリット apā́ṁ nápāt)は、「水の子」を意味する水の神格である。ナパート(孫・末裔)はラテン語 nepos、英語 nephew と同源で、名の全体は印欧祖語の *h₂epom nepōts に再建されている。イランではブルズ(「高き者」)とも呼ばれた。
この神格は、同じ名のままヴェーダとアヴェスターの双方に伝わっている。名を替えて受け継がれたのではなく、一つの神格が二つの伝統に分かれて残った例であるため、本サイトも一項として扱い、記述を体系ごとに分ける。
イランの伝承
アフラ・マズダー、ミスラとともに、イランのアフラ三柱の一に数えられる。アフラ・ベレザント(高きアフラ)とも呼ばれる高位の存在である。『ヤシュト』第19では人を創った者として現れるが、創造をもっぱらアフラ・マズダーに帰す教義のもとで、この働きは後代に縮小した。今日この神格が広く崇められていない理由の一つがここにあるとされる。それでも日々の祭儀のなかでは今も名が唱えられる。
務めは、海から各地へ水を配ることである。ミスラとともに社会の秩序を保ち、正統な統治を支える光輝フワルナフを守るとされた。マリー・ボイスは、この神格をヴェーダのヴァルナに対応する「もう一柱のアフラ」とみている。
ヴェーダの伝承
『リグ・ヴェーダ』では、この語は固有名というより称号として用いられることが多い。もっともよく冠されるのは火神アグニであり、まれに太陽神サヴィトリにも用いられる。水から現れ、黄金で、稲妻をまとうと歌われる姿は、火の暗示と解されてきた。水のなかに隠れ、あるいは水に宿るアグニという主題が、この称号を引き寄せたとみられている。
図像と象徴
この神格を表した古代の像は伝わらない。掲げるべき図像がないというより、水と火という二つの元素の重なりそのものが、この神格の内実をなしている。
水から生まれる火という主題は、印欧語圏の各地に見える。9世紀のスカルド詩『インリング・タル』は火を指して「海の血縁」という隠喩を用い、アルメニアの古い詩では海中の葦がひとりでに燃え上がり、そこから燃える髪と日のように輝く目をもつ英雄ワハグンが生まれる。ただし火との結びつきはイラン側にはみられず、もとは独立した水神であって後にアグニと結ばれたとするヘルマン・オルデンベルクの説もある。自然に燃える天然ガスに着想を求め、ナフサ(naphtha)の語源をこの名に結ぶ試みもなされてきたが、根拠は乏しい。
系譜と関係
イランではアフラ三柱の一。インドではアグニの称号として現れるため、独立した神格としての輪郭は薄い。同じ名が、一方では高位の水の主として、他方では火神の添え名として残った——この分かれ方そのものが、インド・イラン共通期の神格を読むときの見本のような例になっている。