アンテイア
アンテイアー · ステネボイア · Anthea
花と花冠の女神でカリテスの一柱。ヘーラーやアプロディーテーの添え名でもある。ホメーロスではベレロポーンに讒訴したプロイトスの妃ステネボイアの名として現れる。
解説
概要
アンテイア(Ἄνθεια、「花」「開花」)は、ギリシア神話の花と花冠の女神である。カリテス(ローマのグラティア)の一柱とされる。
同時にこの名は、ホメーロス作品においてステネボイア——ティーリュンス王プロイトスの妃——を指す名としても用いられる。
神話・物語
名は古代ギリシア語のアントス(ἄνθος、「花」)に由来する。象徴は黄金色の持物であった。
祭祀はクレータ島を中心に行われた。アンテイアの名はまたヘーラーにも与えられ、ホーライとも関連づけられる。これらを踏まえてアルゴスにはアンテイアの神殿が存在した。クノーソスにおいてはアプロディーテーの別名でもあった。
草木、庭園、開花を司り、とりわけ春の低地や沼地の周辺で崇拝され、植物の成長を司った。愛の女神でもある。
ホメーロス『イーリアス』第6巻において、アンテイアはプロイトスの妃の名として現れる。ベレロポーンに懸想して退けられ、逆に夫へ讒訴した女である。夫はベレロポーンを舅イオバテースのもとへ送り、封をした書状で殺害を依頼した。悲劇作家たちはこの女をステネボイアと呼ぶ。
同じ名が女神と人間の妃の双方に用いられているのは、この名が「花」という普通名詞であるためと考えられる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
複数の女神の添え名として用いられるという点が、この名の性格を示している。ヘーラーにもアプロディーテーにも与えられ、カリテスの一柱の名でもある。特定の神格の固有名というより、開花という性質を指す形容が神格化されたものといえる。
同じ事情はエウノミアー(良き秩序)やディケー(正義)にも見られる。抽象を人格化した神格が、他の神の添え名としても機能するという構造である。
関わる神格・伝承
カリテスの一柱。ヘーラー、アプロディーテー、ホーライと関わる。
プロイトスの妃としてのアンテイア=ステネボイアは、ベレロポーンとイオバテースの物語の発端をなす。退けられた女が讒訴するという型は、旧約聖書のヨセフとポティファルの妻、日本の伝承などにも見られる。
文化的足跡
古代ギリシアにおいてアンテイアと呼ばれた町が複数ある。現在のブルガリアのソゾポルは古代にアンテイアと呼ばれ、前1000年頃にパトラに編入されたアンテイアという村も存在した。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。ベレロポーンの物語における讒訴者としては「ステネボイア」の名で紹介されるのが常である。