アクリシオス
アクリシオス · アクリシウス · Akrisios
アルゴス王。孫に殺されるという神託を恐れて娘ダナエーを幽閉したが、成長したペルセウスの投げた円盤に当たって死んだ。
解説
概要
アクリシオス(Ἀκρίσιος / Akrisios)は、アバースの子で、双子の兄弟プロイトスと王位を争ったアルゴスの王である。娘ダナエーを青銅の部屋に閉じ込めた王として知られる。
彼の物語は、神託を避けようとする行為がその成就を招くという型の代表例である。オイディプースの父ラーイオスと並んで、この型を語るときに必ず引かれる。
神話・物語
プロイトスとは母の胎内にいるときから争い、成長して王位をめぐって戦った。アクリシオスが勝って弟を追放したが、プロイトスはリュキア王イオバテースの援助を得て戻り、ティーリュンスを得る。パウサニアースによれば決着がつかず、土地を分け合ってアクリシオスがアルゴスを、プロイトスがティーリュンス・ミデア・ヘーライオンを領した。この戦いのなかで楯が発明されたとも伝えられる。
男子に恵まれなかった彼が神託に問うと、息子は生まれないが娘の生む男児が汝を殺すと告げられた。彼はダナエーを青銅の部屋——塔とも石室ともいう——に閉じ込め、見張りを置く。しかしゼウスは黄金の雨に姿を変えて降り、彼女はペルセウスを生んだ。アクリシオスは母子を箱に入れて海へ流す。
箱はセリーポス島に漂着し、ペルセウスはそこで育った。長じた孫がアルゴスへ戻ると、彼は恐れてテッサリアのラーリッサへ去る。ところがその地の葬礼競技にペルセウスも加わり、投げた円盤が彼に当たって死んだ。ヒュギーヌスは経緯を別に語るが、円盤による事故死という結末は変わらない。神託を避けるためのあらゆる措置が、そのまま神託を実現する道筋になっている。
ソポクレースは『アクリシオス』『ダナエー』『ラーリッサの人々』の三作でこの一連を扱ったが、いずれも散逸した。
図像と象徴
古代美術で彼が現れるのは、もっぱらダナエーの物語の場面である。娘と孫を箱に納めさせる王として、あるいは黄金の雨を知って驚く父として、脇に置かれる。
本ページの主画像は、前5世紀前半のアッティカ赤絵式カリュクス・クラーテール(トリプトレモスの絵師、エルミタージュ美術館 637)を写した19世紀の石版画である。表にゼウスが黄金の雨として降る場面、裏にアクリシオスがダナエーと幼いペルセウスを箱へ入れるよう命じる場面が置かれ、原因と結果が一つの器の表裏に収まっている。
系譜と関係
父アバース、母オーカレイア(アグライアーとも)。双子の兄弟プロイトス。妻はラケダイモーンの娘エウリュディケー、あるいはアガニッペー。娘はダナエーとエウアレーテー。孫がペルセウスである。
なお、ダナエーを穢したのは叔父プロイトスであり、それが兄弟の戦争の原因であって、ペルセウスの父も彼だとする異伝がある。黄金の雨を、買収された見張りや密通の婉曲な表現と読む解釈は古代からあった。
文化的足跡
避けようとした予言が、避ける行為そのものによって成就するという筋立ては、しばしば自己成就的な予言の古典例として引かれる。ただしギリシアの語り手が力点を置いたのは、王の心理ではなく、神託の言葉が結局は正しかったという事実の側である。