アバース
アバース · アバス · Abas
アルゴス王リュンケウスとヒュペルムネーストラーの子。アルゴスの王位を継ぎ、ペルセウスの曾祖父にあたる。
解説
概要
アバース(Ἄβας / Abas)は、リュンケウスとヒュペルムネーストラーの子で、アルゴスの王である。名は「傷のない者」「素直な者」と解される。
彼の位置は系譜のうえにある。四十九の殺害を免れた一組の夫婦から生まれ、その血がペルセウスへ、さらにミュケーナイの王統へ続いていく。彼の名を冠したアバンティアダイ(アバースの裔)は、アクリシオスやペルセウスを指す呼称として詩に用いられた。
神話・物語
ダナオスの死を父リュンケウスに知らせた褒美として、彼は祖父の楯を与えられたという。ヘーラーに捧げられていたこの楯は、掲げるだけで敵を逃げ散らせるほど恐れられ、彼の死後もその力を保ったと伝えられる。
征服者としても語られる。ポーキス北東部の都市アバイ——アポローン・アバイオスの神託所で知られる——と、テッサリアのペラスゴス的アルゴスを建てたとされる。
妻はオーカレイア、あるいはアグライアー。双子の息子アクリシオスとプロイトスに、交互に王位を継ぐよう遺言して死んだ。ところが二人は母の胎内にいるときから争っており、その遺志が守られることはなかった。パウサニアースは、庶子リュルコスがリュルケイアの名祖となったとも伝える。
図像と象徴
古代の図像は知られていない。彼は物語ではなく系譜と地名のなかに存在する人物であり、絵にすべき場面を持たない。本ページに主画像を置いていないのはこのためである。
標識といえるのはヘーラーの楯だけだが、それを掲げる姿を描いた作例も伝わっていない。物として語られながら、図像としては残らなかった例である。
系譜と関係
父リュンケウス、母ヒュペルムネーストラー。したがって父方の祖父はエジプト王アイギュプトス、母方の祖父はアルゴス王ダナオスである。争った双子の家系は、この一人に合流している。
子はアクリシオスとプロイトスの双子、そして娘イドメネー。アクリシオスの娘がダナエー、その子がペルセウスである。
文化的足跡
オウィディウスらローマの詩人は、アバンティアダイ(男系の子孫)とアバンティアス(女系の子孫)の語を用いた。ペルセウスは前者、ダナエーやアタランテーは後者として呼ばれる。個人としての事績をほとんど持たないこの王の名が、詩の語彙として残った例である。