アバドン
アバドン · アポリュオーン · Abaddon
「破壊」を意味し、旧約聖書では死者の国の深みを指す場所であったが、『ヨハネの黙示録』で底なしの淵の使いにして「いなごの王」となった。ギリシア語名アポリュオーンとアポローンの名の類似が指摘される。神の裁きの執行者とも悪の勢力とも読める。
解説
概要
ヘブライ語のアバドン(「破壊」「破滅」の意)と、そのギリシア語の対応語アポリュオーン(「滅ぼす者」の意)は、聖書において破壊の場所としても、また底なしの淵の天使としても現れる。
ヘブライ語聖書において、アバドンは底なしの穴に言及して用いられ、しばしば死者の憩う場所を意味するシェオルと並んで現れる。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
場所としてのアバドン
旧約聖書において、アバドンは場所である。
シェオルと並ぶ。 『ヨブ記』26章6節「シェオルは神の前に裸であり、アバドンは覆いを持たない」
深み。 死者の国の最も深い部分、あるいはその別名である。
擬人化。 『ヨブ記』28章22節に「アバドンと死は言う」とあり、口を持つものとして語られる。
場所が語りはじめる。 地名の擬人化が、後の人格化の端緒となる。
天使としてのアバドン
『ヨハネの黙示録』9章11節において、アバドンは存在となる。
「彼らは底なしの淵の使いを王としていただいている。その名はヘブライ語でアバドン、ギリシア語ではアポリュオーンという」
いなごの王。 第五のラッパが吹かれたとき、底なしの淵から煙とともにいなごが出る。その王がアバドンである。
神の側か敵か。 このいなごは、神の印を持たぬ者を五か月苦しめるが、殺さない。
神の裁きの執行者とも、悪の勢力とも読める。
両義性。 破壊の天使が神に仕えるという構造は、サマエルと共通する。
名の解釈
アポリュオーン。 ギリシア語訳「滅ぼす者」は、アポローンの名との類似が指摘される。
皇帝崇拝への当てこすり。 ドミティアヌス帝がアポローンを自らの守護神としたことから、これを当てこする表現とする説がある。
ただし確証はない。
中世以降
悪魔として。 中世以降、アバドンはしばしば悪魔の名として扱われた。
魔術文献。 グリモワールに悪魔の名として現れる。
バニヤン。 『天路歴程』(1678年)において、アポリュオンはクリスチャンと戦う怪物として登場する。この場面が、英語圏における理解を大きく規定した。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、『天路歴程』のクリスチャンとアポリュオンの戦いを描いた図である。
関わる神格・伝承
サマエル、アズラエルと滅ぼす天使の系列をなす。
文化的足跡
「アバドン」は、現代のポピュラー文化において悪魔の名として頻繁に用いられる。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。