ヤカテクートリ
ヤカテクートリ · 鼻の主 · Yacatecuhtli
アステカの商業と旅人の守護神で、その象徴は杖の束。商人は夜に杖を束ねて耳の血を振りかけ、商いの成功と獣や強盗からの守護を祈った。長距離商人ポチテカの守護神で、彼らは密偵の役も担った。
解説
概要
アステカ神話において、ヤカテクートリは商業と旅人——とりわけ商用の旅人——の守護神であった。
その象徴は杖の束である。商人は村から村へ商品を売り歩くとき杖を持ち、夜には杖を束ねてまとめ、耳から取った血をこれに振りかけた。
ヤカテクートリを称えるこの儀礼が、将来の商いの成功と、猛獣や強盗からの守護を保証すると信じられた。
ポチテカ
アステカの長距離商人はポチテカと呼ばれ、特権的な階層をなした。
彼らは遠隔地へ赴いて奢侈品——ケツァルの羽、翡翠、カカオ、綿——を交易した。同時に、訪れた土地の情報を持ち帰る密偵の役も担った。
商人が偵察者でもあるという構造は、アステカ帝国の拡大に不可欠であった。ポチテカが殺されることは、戦争の口実となった。
ヤカテクートリはこの階層の守護神である。ポチテカは独自の神殿と祭を持ち、他の階層とは別の裁判権すら有していた。
名
「ヤカテクートリ」は「鼻の主」あるいは「先導する主」を意味する。ヤカトル(鼻)は「先端」「先導」の意も持つ。
隊列の先頭に立って進む者、という含意である。
図像
杖を持ち、荷を背負う姿で描かれる。鼻が強調されることがある。
マヤの神L、エク・チュアフと、商人の守護神という職能を共有する。メソアメリカ全域で、交易の神が重要な位置を占めた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ヤカテクートリの図である。
杖の束が、この神を規定する。旅の道具そのものが、神の象徴である。
関わる神格・伝承
ポチテカの守護神。エク・チュアフ、神Lと職能を共有する。
文化的足跡
ポチテカの組織と特権は、アステカ社会の階層構造を知る重要な資料であり、サアグンの『ヌエバ・エスパーニャ全史』第九書がこれを詳しく記す。