エク・チュアフ
エク・チュアジ · 神M · Ek Chuah
後古典期マヤの商人の神でカカオの守護神。絵文書神分類の「神M」。黒い身体に荷紐と包みを伴い、槍や蠍の尾を持つ。商人は道中で香を焚いて祈り、カカオ園の所有者が祭を営んだ。
解説
概要
エク・チュアフ(Ek Chuah、エク・チュアジとも)は、後古典期マヤの商人の神で、カカオの守護神である。シェルハス=ツィンマーマン=タウベの絵文書神分類では「神M」と呼ばれる。
マヤの諸遺跡の象形文字と美術に描かれた神々の一柱として、マヤ宗教の重要な一部と解されている。
神話・物語
固有の物語は伝わらない。この神が知られるのは、絵文書の図像と、スペイン人の記録による。
ディエゴ・デ・ランダ『ユカタン事物記』(16世紀)によれば、商人と旅人はこの神を祀り、道中でコパルの香を焚いて祈った。カカオ園の所有者はムアン月に祭を営み、エク・チュアフとチャク、ホブニルに犠牲を捧げたという。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、モーリー『マヤ象形文字入門』(1915年)に載る絵文書の図である。モーリーは「エク・アハウ、黒い長」と記したが、他の資料はエク・チュアフと同定している。
ドレスデン絵文書では黒と白の縞で、マドリード絵文書では全身黒で描かれる。口の周りは赤褐色の縁取りで囲まれ、下唇が大きく、目の右に二本の曲線がある。歯が一本だけの老人として描かれることもあり、マドリード絵文書ではこの姿が最も多い。
商人が運ぶ荷物の包みを伴って描かれ、頭に巻いた縄(メカパル、荷紐)がその重荷を示す。槍を持ち、ときに蠍の尾を持つ。
名は「黒い蠍」と解される。黒はマヤにおいて西——日没の方位——の色であり、商人の神が黒であることは、遠方への旅と結びつく。
関わる神格・伝承
商人の神として、カカオ——貨幣として用いられた——を司る。チャク(雨の神)、ホブニル(バカブの一柱)とともに祀られた。
戦の神とする解釈もある。槍を持つ姿と、モーリーの「黒い長」という記述がその根拠である。商人が武装して旅をしたことの反映ともいえる。
文化的足跡
カカオはマヤ社会において貨幣であり、儀礼の飲料であり、貴族の嗜好品であった。その守護神が商人の神でもあるという事実は、カカオの経済的な性格を示している。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。マヤの神々のうち、チャクやククルカンに比べて紹介の機会が乏しい。