ユニコーン
一角獣 · 独角獣
額に一本の角を持つ、馬に似た伝説の獣。古代ギリシアの博物誌に発し、中世ヨーロッパでは処女にのみ心を許す純潔の象徴として、キリスト教的な寓意をまとった。
解説
概要
ユニコーン(一角獣)は、額の中央に一本の角をもつ、馬あるいは山羊に似た伝説の獣である。特定の神話の登場者ではなく、古代の博物誌に生まれ、中世キリスト教世界で寓意を与えられ、近世には紋章の獣となって、文脈を移し替えながら生き延びてきた。
物語と伝承
文献上の最古の記述は、ペルシア宮廷に仕えたギリシア人医師クテシアスの『インディカ』(前4世紀頃)にある。インドに棲む白い野生のロバとして、赤い頭と青い目、額に長さ1キュビト半ほどの角をもち、その角で作った杯は毒を防ぐと伝える。彼自身は現地を見ておらず、旅人の伝聞に拠った記述で、本文は9世紀のフォティオスの抄録を通じて残った。以後アリストテレス、大プリニウス、アイリアノス、ストラボンらが一角の獣に触れており、その像はサイやレイヨウ、そして一角鯨の牙の見聞が混ざって形づくられたと考えられる。
旧約聖書の「レエム」(本来は野牛)が、ギリシア語訳で「モノケロス」、ラテン語訳で「ウニコルニス」と移され、一角獣に聖書の権威を与えた。決定的だったのは2〜4世紀のギリシア語『フィシオロゴス』が伝える捕獲譚である。獰猛なこの獣は、処女の前にだけは従順になり、その膝に頭を委ねて捕らえられるという。これは処女マリアに宿ったキリストの受肉の寓意とされ、中世のフィシオロゴス系動物寓意譚を通じて西欧美術と文学に深く根を下ろした。角で毒を清め、汚れた泉を飲めるようにするという主題も広く描かれた。
図像と象徴
典型のユニコーンは、白い馬体に割れた蹄、ときに山羊の顎鬚と獅子の尾をもち、額から螺旋を描く角を伸ばす。この螺旋は、交易で北方からもたらされた一角鯨の牙の形に由来する。図像の頂点は、15世紀末の二つのタペストリー連作である。一つはニューヨークのクロイスターズが所蔵する「一角獣狩り」(主画像はその一場面「囚われの一角獣」)、もう一つはパリのクリュニー美術館の「貴婦人と一角獣」で、いずれも処女と獣の主題を軸に据える。「角」と信じられたアリコルンは、実際には一角鯨の牙であることが多く、解毒剤や万能薬として18世紀に至るまで高値で取引され、王侯の宝物庫には角そのものが収められた。紋章の世界では、ユニコーンは支え獣として現れ、スコットランドの一角獣と、イングランドの獅子が並ぶ英国王室の紋章がよく知られる。
関係する存在
紋章の上でユニコーンとしばしば対をなすのが獅子である。実在の動物では、サイやオリックス、そして誤訳の元となった野牛レエムが、一角の獣の造形の源に擬される。なお中国の麒麟は「中国の一角獣」と訳されることがあるが、複数の動物の特徴をあわせもつ瑞獣であり、由来も意味も西洋のユニコーンとは別物である。似た角の数に引きずられて同一視しないよう注意したい。
文化的足跡
中世に純潔と受肉を担った獣は、近代以降その宗教的な意味を脱ぎ、幻想と無垢の象徴へと姿を変えた。今日では児童文化やファンタジー、意匠の題材として広く親しまれ、多くのゲームやアニメにも幻獣として登場する。