ゴブリン
goblin
ヨーロッパ各地の民間伝承に現れる、小柄で醜い悪戯好きの精霊。家や地下に棲み、いたずらから害悪まで幅広い性格をもつ。近代以降の幻想文学で広く知られる。
解説
概要
ゴブリン(goblin)は、ヨーロッパ各地の民間伝承に現れる、小柄で醜い人型の精霊である。悪戯好きから邪悪なものまで気質はさまざまで、家屋や地下、洞穴に棲むとされる。姿を変える能力をもつと語られることも多い。単一の神話体系に属さず、ヨーロッパ各地の似た存在を束ねる総称として用いられてきた。
由来と物語
語源は古フランス語のgobelinに遡り、12世紀の記録に現れる。中世ラテン語のgobelinusは、北フランス・ノルマンディーのエヴルー周辺に出没する精霊の名として記された。さらにゲルマン系のコボルト(kobold)や、ギリシア語で悪童・小鬼を意味するコバロス(kobalos)との関連も指摘される。英語には14世紀に入った。
伝承のゴブリンは地方ごとに多彩な顔をもつ。イングランドやスコットランドでは、トロールやエルフと同じく妖精の一種として語られ、家事を手伝う家付きの精霊から、旅人を害する悪辣な盗人まで幅がある。友好的で家庭的な変種はホブゴブリンと呼ばれ、その代表がロビン・グッドフェローである。一方、イングランドとスコットランドの国境地帯に伝わるレッドキャップは、人の血で帽子を染める残忍な鬼として恐れられた。
図像と象徴
図像上のゴブリンは、しばしば襤褸をまとった、毛深く小柄な老人めいた姿で表される。醜怪さと矮小さがその本質であり、美しい妖精とは対照的に、大地や地下、家の暗がりと結び付けられる。キリスト教の広まりとともに、かつて家を守る精霊とされた存在の一部が悪魔的なものへと読み替えられ、その醜悪な相貌が強調されていった。
関わる伝承
ゴブリンは、ブラウニー、ドワーフ、ノーム、インプ、コボルトといった多くの小妖精と近縁であり、しばしば互いの境界が曖昧である。ウェールズのコブリナウ(coblynau)は鉱山に棲み、坑道で鎚音を響かせる鉱山の精として語られた。こうした地下の住人という性格は、後世のゴブリン像に受け継がれていく。
文化的足跡
ゴブリンを近代の文学に定着させたのは、19世紀の作家たちであった。クリスティーナ・ロセッティの詩『ゴブリン・マーケット』(1862年)や、ジョージ・マクドナルド『お姫さまとゴブリン』(1872年)は、その姿を広く印象づけた。20世紀にはJ・R・R・トールキンの作品が、地下に群れる邪悪な種族というゴブリン像を決定づけ、以後の幻想文学やゲームにおける造形の礎となった。