トゥラシー
トゥラシー · トゥルシー · ヴリンダー
ヒンドゥーの聖なる植物にして女神。阿修羅の妻ヴリンダーの貞節の力を、ヴィシュヌが夫に化けて破ったため、彼女は神を石になるよう呪って焼身し、その灰からこの草が生えた。ヴィシュヌはその葉なしに供養が成り立たないと定めた。
解説
概要
トゥラシー(トゥルシー、ヴリンダーとも。和名カミメボウキ)は、ヒンドゥー教で聖なる植物とされるシソ科の草で、同時に女神でもある。女神ラクシュミーの化身とされ、ヴィシュヌの妻とみなされる。阿修羅の妻ヴリンダーがヴィシュヌに欺かれて命を落とし、その灰からトゥラシーが生えたという物語が伝わる。人の姿の像ではなく、生きた草そのものが祀られる。
なお本サイトの分類では、ヒンドゥーの体系に含めて扱う。植物であると同時に女神である。
ヴリンダーの物語
ヴリンダーは、阿修羅ジャランダラの妻であった。夫に貞節を尽くす彼女の力によって、ジャランダラは誰にも殺されない身となっていた。シヴァがジャランダラと戦っても、勝つことができなかった。そこでヴィシュヌがジャランダラの姿に化けて、ヴリンダーのもとを訪れた。夫でない者に触れたことで、ヴリンダーの貞節の力は失われ、ジャランダラは討たれた。
真相を知ったヴリンダーは、ヴィシュヌに石になれと呪った。ヴィシュヌは、ヴィシュヌの象徴として祀られる黒い石シャーラグラーマとなった。ヴリンダーは夫の火葬の火に身を投じ、その灰からトゥラシーの草が生えたという。ヴィシュヌは、トゥラシーの葉がなければ自分への供養は成り立たないと定めた。欺いた神が、欺いた相手を欠かせない存在としたのである。
トゥラシーの祀り
毎年、トゥラシーとヴィシュヌ(シャーラグラーマ、あるいはクリシュナの像)の結婚式、トゥラシー・ヴィヴァーハが営まれ、婚礼の季節の始まりを告げる。ヒンドゥーの家の中庭には、トゥラシーを植えた壇が置かれ、朝夕に水を供えて灯をともす。トゥラシーの葉は供養に用いられ、亡くなった人の口にも置かれる。伝統医学アーユルヴェーダでも、大切な薬草とされている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カミメボウキ(トゥラシー)である。像ではなく、生きた草そのものが礼拝されることが、この女神の本質である。
関わる神格・伝承
ヴィシュヌの妻でラクシュミーの化身とされ、ジャランダラの妻ヴリンダーとしても語られる。
文化的足跡
トゥラシーは、今日もインドの家庭で広く育てられ、祀られている。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。