トゥアン・マク・カリル
トゥアン・マク・カリル · トゥアン · Tuan mac Cairill
パルソローンの民を滅ぼした疫病をひとり生き延び、牡鹿・猪・鷹・鮭へと老いるたびに変身して若返り、鮭を食べた王妃から再び人として生まれた。アイルランドへの侵略の五つの波をすべて目撃し、キリスト教の時代に聖フィニアンに歴史を語った。
解説
概要
トゥアン・マク・カリルは、アイルランドの伝承に語られる、前世の記憶を持ち続けた隠者である。最初の渡来者たちの一族のなかで、ただひとり疫病を生き延び、牡鹿、猪、鷹、鮭と、老いるたびに別の動物に生まれ変わって若返った。アイルランドの歴史をすべて見届け、キリスト教の時代に聖フィニアンにそれを語り伝えたとされる。
なお本サイトの分類では、ケルト神話の体系に含めて扱う。
五つの姿
トゥアンは、パルソローンに率いられてアイルランドに渡った人々の一人であった。その民が疫病で滅びたとき、ただひとり生き残った。老いて洞窟にこもると、若い牡鹿として目を覚ました。牡鹿として老いると猪に、猪として老いると鷹に、鷹として老いると鮭に生まれ変わった。最後に鮭が漁師に捕らえられて王妃に食べられ、王妃はトゥアンを身ごもった。こうして彼は再び人として生まれたのである。
歴史の目撃者
トゥアンは、パルソローン、ネウェド、フィル・ヴォルグ、トゥアハ・デ・ダナーン、ミレー族と、アイルランドへの五つの渡来の波をすべて目撃した。それぞれの時代を異なる動物の目で見て、最後にキリスト教の時代の修道士に、その歴史を語り伝えた。
教会史のなかの転生
同じく長命の目撃者として語られるのが、フィンタン・マク・ボーフラである。二人とも最後に洗礼を受け、修道士に歴史を語る。中世の修道士たちが、在来の伝承を聖書の歴史のなかに組み込むために用いた語りの形である。一方で、動物に生まれ変わるという観念はキリスト教のものではなく、より古い層を残しているとも考えられる。カエサルは、ガリアのドルイドが魂の不滅と転生を説いていたと記しているが、この記述とアイルランドの物語が直接つながっていることを示す証拠はない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、『神話と伝説——ケルト民族』(1910年)の挿絵である。
関わる伝承
フィンタンと対をなし、パルソローンの民の最後の生き残りとされる。
文化的足跡
トゥアンの物語は、転生と記憶をめぐる主題として、現代のアイルランド文学にも取り上げられている。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。