トラコツォントリ
トラコツォントリ · Tlacotzontli
道と旅のアステカの神。旅人は道の途上で自らを傷つけて血を捧げ、血と液体ゴムを塗った紙の幟を供えた。アステカにおいて自傷による瀉血は人身供犠より頻繁で身分を問わず行われた日常的な祭祀の形式であった。
解説
概要
トラコツォントリは、道のアステカの神である。先住民メキシコ人にとって、道の守護者でもあった。
この神を喜ばせるため、多くの旅人が道の途上で自らを傷つけた。血と樹脂で覆われた紙の幟も、この神への供物として作られた。
職能
トラコツォントリは道と旅を司る。旅人は道の途上で、耳や舌や脚を傷つけて血を出し、この神に捧げた。アステカでは、自らの体を傷つけて血を捧げること(自己供犠)は日常的な祭祀の形であり、人を犠牲にする儀礼よりもはるかに頻繁に、身分を問わず行われた。血を出すには、黒曜石の刃やアガベの棘が用いられた。
旅人はまた、アマトル紙(樹皮紙)で作った幟に、血と液体ゴム(ウリ)を塗って捧げた。
道の神
長い旅は危険なものであった。遠くの土地と交易した商人(ポチテカ)は、武装して隊列を組み、盗賊や敵対する町を避けて進んだ。道の神への祈りは、こうした危険への備えである。商人の守り神ヤカテクートリが旅する人を守るのに対し、トラコツォントリは道そのものの神である。
道と境界に神を置く考えは、日本の道祖神など、各地に見られる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ボルジア絵文書のトラコツォントリの図である(Commons の説明によれば、絵文書の図をもとに Photoshop で作った現代の描き起こし)。
関わる神格・伝承
ヤカテクートリと旅の領域を分け合う。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。アステカの自傷供犠を論じる文脈で言及される。
なおメソアメリカの先住民の伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。