シニーヴァーリーとアヌマティ
シニーヴァーリー · アヌマティ · クフー
ヴェーダの月相の女神の組。シニーヴァーリーは新月前日の細い月、アヌマティは満月前日のほぼ満ちた月を司り、クフー(新月)・ラーカー(満月)とともに四柱をなす。新月と満月に行われたヴェーダの祭祀の時刻が女神として祀られた。シニーヴァーリーは多産と安産を司る。後代にはほとんど言及されなくなった。
解説
概要
シニーヴァーリーとアヌマティは、ヒンドゥー教の最古の聖典『リグ・ヴェーダ』に歌われる、月の満ち欠けにかかわる女神たちである。シニーヴァーリーは新月の前日の、見えるか見えないかという細い月を、アヌマティは満月の前日のほぼ満ちた月を司る。新月の日のクフー、満月の日のラーカーとあわせて四柱をなす。ヴェーダの祭祀が新月と満月に営まれたことから、祭祀の日取りを定める月の姿そのものが女神として祀られたのである。
なお本サイトの分類では、ヒンドゥーの体系に含めて扱う。月の相の女神が組で現れるため群記事とする。
月の四つの相
ヴェーダには、月の満ち欠けのそれぞれの相を司る女神がいる。新月の前日の細い月のシニーヴァーリー、月の見えない新月の日のクフー、満月の前日のほぼ満ちた月のアヌマティ、満月の日のラーカーである。ヴェーダの祭祀は、新月と満月の日に営まれた(ダルシャ・プールナマーサ祭)。儀礼の時を定める月の姿が、そのまま女神として人の姿をとったのである。
出産の女神
『リグ・ヴェーダ』2.32の讃歌は、シニーヴァーリーを、腰が広く、腕も指も美しく、多産と安産をもたらす女神として歌い、サラスヴァティーやラーカーなどとともに呼び求めている。10.184の讃歌は、胎を子宮に宿らせるよう、シニーヴァーリーとサラスヴァティーに祈る。月の周期が、女性の身体の周期と結びつけられていたのである。アヌマティの名は「許し」「同意」を意味し、神々の許しを与えて子孫を授ける女神とされた。
祭祀とともに消えた女神
これらの女神は、ヴェーダの祭祀のなかでだけ重要な存在であった。後のプラーナの時代以降のヒンドゥー教では、ほとんど言及されなくなる。祭祀のかたちが変わると、その祭祀に結びついた神もまた消えていくのである。森の女神アラニヤーニーをはじめ、ヴェーダの小さな女神の多くが同じ運命をたどった。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
クフー、ラーカーとともに月の相の女神をなし、サラスヴァティーとともに祈られる。
文化的足跡
日本語でこれらの名が挙げられることはまずなく、ヴェーダの祭祀の研究のなかで言及される。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。