アラニヤーニー
アラニヤーニー · Aranyani
ヒンドゥーの森と野の動物の女神で、名は「森」を意味する。『リグ・ヴェーダ』に一つの讃歌のみが残り、夕暮れの森に聞こえる牛の鳴き声や車の軋むような幻聴を描く。「森の女は殺さない」と歌われる。後代の文献にはほとんど現れず、祭祀も伝わらない。
解説
概要
アラニヤーニーは、ヒンドゥー教の最古の聖典『リグ・ヴェーダ』に歌われる、森とそこに住む獣たちの女神である。名は「森」を意味する。その讃歌は『リグ・ヴェーダ』のなかでも描写の豊かなことで知られ、夕暮れの森に一人でいるときに聞こえる、ありもしない物音を歌っている。後の時代の文献にはほとんど現れず、祭祀も伝わっていない。
なお本サイトの分類では、ヒンドゥーの体系に含めて扱う。
森の讃歌
アラニヤーニーに捧げられているのは、『リグ・ヴェーダ』第十巻の百四十六番の讃歌ただ一つである。讃歌は、村のことを尋ねもせず森のなかをさまよう森の女に呼びかけ、恐ろしくはないのかと問う。夕暮れの森では、牛の鳴き声や車の軋むような音が聞こえ、誰かが牛を呼んでいるようにも、木を伐っているようにも思える。森にひとりでいると、聞こえるはずのない音が聞こえてくるのである。
讃歌は続けて、森の女は誰かが襲いかからないかぎり人を殺さないと歌い、甘い果実を食べれば人は思うままに休むことができると結ぶ。足首に鈴をつけているとも言われる。森の気配と物音が、そのまま女神の姿として描かれている。
村の外の世界
ヴェーダの世界では、人の住む村と、その外に広がる森とが対をなしていた。森は人の秩序の及ばない場所であり、同時に、秘儀を学ぶ場所でもあった。「森林書」(アーラニヤカ)と呼ばれる文献は、森のなかで学ばれるべき教えを伝えている。人生の第三の段階では、人は家を離れて森に住むものとされた。
忘れられた女神
アラニヤーニーを祀る神殿や祭は伝わっておらず、後の時代の文献にもほとんど名が出てこない。近年では、インドの森林を守る運動のなかで、この女神の名が引かれることがある。ただし、古代の女神を現代の環境保護の象徴とすることには、現代の側からの意味づけが含まれている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、森を表した図である。
関わる神格・伝承
リトアニアの森の女神メデイナとともに、森の女神の系列をなす。
ヴェーダの小さな女神には、月の満ち欠けを司るシニーヴァーリーとアヌマティもいる。
文化的足跡
アラニヤーニーの讃歌は、ヴェーダ文学における自然描写の白眉として引かれることが多い。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。