ペハル
ペハル · ペカル · ギャルポ・ペハル
パドマサンバヴァに調伏されてサムイェ寺の守護霊となったギャルポの霊の長。17世紀にネチュン僧院の護法となり、その臣下が神託官に憑依するネチュン神託はチベット政府の公式神託として今日も続く。
解説
概要
チベット仏教の神話によれば、ギャルポ・ペハル(チベット語 rgyal po dpe har、ペカルとも綴る)はギャルポ(王の霊)の類に属する霊である。
8世紀にパドマサンバヴァがチベットに到着したとき、すべてのギャルポの霊を調伏してギャルポ・ペハルの支配下に置き、ペハルはいかなる衆生も害さないと約束して、ティソン・デツェン王の治世にサムイェ寺の主守護霊とされた。ペハルは五体のギャルポの霊の一団の長であり、のちに17世紀に第五代ダライ・ラマのもとでネチュン僧院の護法尊となる。
国家神託
西夏の滅亡後、タングートの難民のチベットへの流入によってペハルがチベット仏教に取り入れられ、やがて国家神託——ネチュン神託——という重要な役割を担うに至った。
ネチュン神託は、チベット政府の公式の神託であり、ペハル(正確にはその臣下ドルジェ・ダクデン)が神託官に憑依して、ダライ・ラマと政府に助言を与えた。転生者の探索、政策の決定、亡命の判断——1959年のダライ・ラマのラサ脱出も、ネチュン神託の助言によったとされる。神託は今日もダラムサラで続いている。
サムイェ寺の守護
伝えによれば、パドマサンバヴァはペカルをチベット最初の僧院サムイェの主守護者に据えた。サムイェ寺内の一つの堂がペハルに捧げられ、その像は覆われて安置される。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ペハルの図である。
白い身色で、三面六臂、籐の帽子をかぶり、雪獅子に乗る姿で表される。弓矢、剣、鉤、棍棒を持つ。
外来の霊が国家の神託になるという経緯が、この尊格を規定する。パドマサンバヴァが調伏したとされる霊が、千年後にはチベット政府の最高の助言者になっている。調伏された存在が国家を守るという構図は、鳩槃荼や夜叉の護法化と同じ型に属する。
関わる神格・伝承
ギャルポの霊の長。サムイェ寺とネチュン僧院の護法。ドルジェ・ダクデンはその臣下。
文化的足跡
ネチュン神託は、チベット亡命政府において今日も公式の地位を持ち、その神託官は政府の儀式に参列する。
なおチベット仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。