ノトス
ノトス · アウステル · Notus
ギリシアの南風の神で、アストライオスとエーオースの子。晩夏と秋の熱風で作物を枯らし嵐をもたらす。今日のシロッコに対応する。アテーナイの風の塔では水瓶を傾ける若者として表される。
解説
概要
ノトス(Νότος / Notos)は、南風の神である。暁の女神エーオースとティーターンのアストライオスの子で、北風ボレアース、西風ゼピュロスとともにヘーシオドス『神統記』に名が挙げられる。晩夏から秋にかけて吹き、嵐と雨をもたらす風とされた。
神話・物語
『神統記』は、アストライオスとエーオースの子である三つの風を、人間に益をもたらす神々の血筋の風とし、テューポーンから生じた気まぐれな突風と区別する(869行以下)。
ただし実際の描写では、ノトスはしばしば荒々しい。『イーリアス』第3巻では、山の頂に霧を降ろして羊飼いを困らせる風にたとえられ、『オデュッセイア』第12巻では、トリーナキエー島に吹きつのってオデュッセウスの一行を足止めし、飢えた部下たちがヘーリオスの牛に手をかける原因となる。
アフリカの側から地中海を越えてくる南風は、熱く湿った空気を運び、ときに作物を傷める。現在のシロッコにあたる風である。
ノトスにも、北風や西風のような固有の物語は伝わらない。人の姿が最もはっきり描かれるのは、オウィディウス『変身物語』第1巻の大洪水の場面である。ユーピテルに放たれたノトスは濡れた翼で飛び立ち、その顔は闇に覆われ、髭は雨に重く、白髪からは水が流れ落ち、額には霧が宿り、衣の襞からは露が滴る。南風が雨の風として擬人化されている。
図像と象徴
本サイトの主画像は、アテーナイの「風の塔」の南面に彫られたノトスの浮彫である。
前1世紀に建てられたこの八角形の塔には、八方の風がそれぞれ有翼の擬人像として表されている。ノトスは若者の姿で、水瓶を傾けて水を注いでおり、雨をもたらす風であることを示す。法螺貝を吹く老人の姿の北風ボレアースとは対照的である。
系譜と関係
父はアストライオス、母はエーオース。兄弟はボレアース、ゼピュロス、後代にはエウロスも加えられる。ローマではアウステルと呼ばれた。
文化的足跡
ローマの呼び名アウステルは「南」を意味するラテン語 auster となり、「南の地」を指すオーストラリアの名の語源となった。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。