ネルトゥス
ネルトゥス · ナーサス · Nerthus
タキトゥス『ゲルマーニア』が伝えるゲルマンの大地の女神。布で覆われた車で諸族を巡り、その間は武器が収められた。祭のあと車を洗った奴隷は湖に呑まれた。名は北欧の男神ニョルズと言語的に同一である。
解説
概要
ゲルマンの異教において、ネルトゥス(Nerthus)は儀礼の車の行列に結びつけられた女神である。1世紀のローマの歴史家タキトゥスが、その民族誌『ゲルマーニア』において伝える。
なお本サイトの分類では、ゲルマン諸民族の神格として北欧の体系に含めて扱う。北欧神話の神ではないが、同じ語族の宗教に属する。
タキトゥスの記述
『ゲルマーニア』第四十章において、タキトゥスは、あるゲルマン諸族——ランゴバルディ、レウディグニ、アウィオネス、アングリイ、ウァリニ、エウドセス、スアリネス、ヌイトネス——が、とりわけこの女神を崇めることで際立っていたと記す。
「彼らは共通に、ネルトゥス、すなわち母なる大地を崇める。彼女が人事に関わり、諸族のもとを訪れると信じる」
大洋の島に聖なる森があり、そこに布で覆われた車が置かれる。祭司のみがこれに触れることができる。女神が車に来たことを祭司が知ると、牝牛に引かれた車が進み、行く先々で祝いと平和が訪れる。
「その日々のうちに、武器は収められ、鉄はすべて閉ざされる」
やがて女神が人との交わりに飽きると、祭司が車を戻す。車と布、そして女神自身が、人里離れた湖で洗われる。この務めを果たした奴隷たちは、直ちに同じ湖に呑まれる。
「それゆえ秘密の恐怖と敬虔な無知がある。ただ死にゆく者のみが見るものが、何であるかについて」
名と解釈
ネルトゥスの名は、北欧の神ニョルズと言語的に同一である。ゲルマン祖語 *Nerþuz が、古ノルド語のニョルズに規則的に対応する。
女神ネルトゥスが、千年ののちに男神ニョルズになっている。性の転換の理由は不明である。ニョルズが姉妹と交わってフレイとフレイヤをもうけたという記述から、その姉妹がネルトゥスにあたるとする説がある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エミール・デプラー《ネルトゥス》である(1905年)。
近代の解釈への注意。 ネルトゥスの祭祀については、タキトゥスの記述以外に資料がない。デンマークの湿地から出土した車や人身供犠の遺体をこの記述と結びつける議論があるが、直接の関係は証明されていない。
関わる神格・伝承
ニョルズと名を同じくする。母なる大地。
文化的足跡
19世紀以降のドイツとスカンディナヴィアのナショナリズムにおいて、ネルトゥスは「ゲルマンの大地母神」として繰り返し引かれた。この解釈は、タキトゥスの簡潔な記述を大きく越えている。