マンドゥリス
メルル · メルル · タルミスの主
ヌビアの神で、カラブシャ神殿を中心にエジプトでも祀られた。ローマ期の碑文は「太陽、すべてを見る主、全能のアイオーン」と呼ぶ。ヘムヘム冠を戴く姿で描かれた。
解説
概要
マンドゥリス(Μανδουλις)は、古代ヌビアの神であり、エジプトでも崇拝された。マンドゥリスというギリシア語形は、エジプト語ではないメルル(Merul)またはメルル(Melul)という名を写したものである。
祭祀の中心はタルミス(現カラブシャ)のカラブシャ神殿にあり、アジュアラにもこの神を祀る神殿があった。
神話・物語
固有の神話は伝わらない。この神について知られているのは、神殿と、碑文と、その広がりである。
エジプトの土着のファラオの治世には、この神の信仰は知られていない。カラブシャ神殿が建てられたのはプトレマイオス朝期(前305〜前30年)であり、隆盛したのはローマ期である。神殿はアウグストゥス帝(前27〜後14年)とウェスパシアヌス帝(69〜79年)の治世に拡張された。ウェスパシアヌス帝期から248年ないし249年に至るまでの年記入りの碑文が、神殿に連続して残っている。
そのうちの一つは、この神を「太陽、すべてを見る主、万物の王、全能のアイオーン」と呼ぶ。ギリシア語で書かれた讃辞であり、ヌビアの地方神がローマ期の宗教語彙のなかでどう理解されたかを示す。
カラブシャとアジュアラのほか、デンドゥールのペテシとピホルの神殿、そしてフィラエでも祀られた。デンドゥールの碑文は「偉大なる神、タルミスの主」と記し、祭祀の中心地を明示している。フィラエでは、現存する最後のヒエログリフ碑文——394年に刻まれたもの——の隣の壁に、人の姿で描かれている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カラブシャ神殿に残る浮彫である。
この神はしばしばヘムヘム冠を戴く姿で描かれた。三重のアテフ冠を横に並べた大仰な冠で、王権と太陽の再生を表す。人の頭を持つ隼の姿で表されることもある。
ヌビアの神がエジプトの図像語彙で描かれるという点が重要である。名はエジプト語ではない。しかし冠も、姿勢も、浮彫の様式も、すべてエジプトのものである。境界の神殿がどのように機能したかが、一枚の壁面に現れている。
関わる神格・伝承
エジプトの神々のうちではホルスと近い位置に置かれ、隼の姿を共有する。ローマ期の碑文では太陽神として理解された。
フィラエとカラブシャは、エジプトとヌビアの境界に位置する。この一帯の神殿は、キリスト教化がエジプト本土で進んだのちも異教の祭祀が続いた場所として知られる。394年のヒエログリフ碑文がフィラエに残り、その隣にこの神が描かれているという事実は、象形文字による記録の終わりとこの神の祭祀とが同じ時期まで続いたことを意味している。
文化的足跡
カラブシャ神殿は、アスワン・ハイ・ダム建設に伴う水没を避けるため、1960年代に西ドイツの援助で解体・移築された。ヌビア遺跡救済のための国際的な事業の一環である。今日この神の浮彫を見ることができるのは、その移築のおかげである。
日本語圏でこの神が紹介されることはまずない。エジプト神話の書物はナイル流域の神々を扱い、その南に広がるヌビアの神格はほとんど触れられない。しかしローマ期のエジプトにおいて、南の境界を守る神殿に日々供物を捧げていたのはこの神であった。