リー・バン
リー・バン · 聖ムルゲン · Lí Ban
「女たちの鑑」を意味するアイルランドの女性の名で、二人の人物がいる。一人は異界マグ・メルの王の妻でファンドの姉妹であり、クー・フーリンを異界へ招いた。もう一人は泉が溢れてネイ湖ができた際に鮭の下半身を得て三百年を海で過ごし、洗礼を受けて聖ムルゲンとなった。
解説
概要
リー・バン(「女たちの鑑」)は、アイルランドの伝承に現れる女性の名で、まったく異なる二人の人物がこの名で知られる。一人は異界マグ・メルの王の妻で、英雄クー・フーリンを異界へ招いた女性。もう一人は、湖に沈んだのち下半身が鮭となって三百年を海で過ごし、最後に洗礼を受けて聖女ムルゲンとなった娘である。
なお本サイトの分類では、ケルト神話の体系に含めて扱う。同名の二人を一つの記事で整理する。
異界のリー・バン
一人目のリー・バンは、海の神マナナンの妻ファンドの姉妹で、異界マグ・メル(「喜びの野」)の王ラヴリドの妻である。物語『クー・フーリンの病』によれば、クー・フーリンは異界の女たちに鞭打たれ、一年のあいだ病に伏した。やがてリー・バンが使者として現れ、夫ラヴリドの戦を助けてほしいとクー・フーリンを異界へ招く。クー・フーリンはこれに応じて異界へ赴き、ラヴリドのために戦った。
人魚になった娘
二人目のリー・バンは、エオハイドという人物の娘である。泉の番人が蓋を閉め忘れたために泉が溢れ出し、ネイ湖ができて一家は水に呑まれた。リー・バンだけは湖の底の小部屋で一年を生き延び、神に祈ると下半身が鮭に変わった。こうして人魚となった彼女は、三百年を海で過ごしたという。やがて聖コムガルの弟子に見つけられて洗礼を受け、「海の女」を意味するムルゲンの名を授かって天に召された。今もアイルランドの一部の教会暦に、聖ムルゲンとして記されている。異界の存在が、キリスト教の聖人のなかに迎え入れられた例である。
番人が閉め忘れた泉から湖が生まれるという筋は、アイルランドの湖の起源の話に多く、水門の番人の怠慢で国が沈んだウェールズのカントレル・グワエロドとも同じ形をしている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる伝承
ファンドの姉妹としてクー・フーリンを異界へ招いた人物と、聖ムルゲンとなった人物の二人がいる。
文化的足跡
聖ムルゲンの祝日は、アイルランドの一部の教会暦に記されている。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。