夜の洗濯女
夜の洗濯女 · レ・ラヴァンディエール · カンネレゼド・ノズ
ケルト神話の三人の老いた洗濯女。夜の川辺でまもなく死ぬ者の血に染まった衣を洗う。手伝いを断れば殺され、手伝っても同じ向きに絞らなければ腕を折られて水に引き込まれる。バンシーの一形態であり、イベリア北部にも分布する。
解説
概要
夜の洗濯女は、ケルトの伝承に語られる三人の老いた女たちである。夜の川辺で、間もなく死ぬ者の血に染まった衣を洗っているとされ、その姿に出会うことは死の予告であった。ブルターニュではカンネレゼド・ノズ、スコットランドではベン・ニーエ(「洗う女」)と呼ばれ、スペイン北西部やポルトガル北部にも同じ伝承がある。
なお本サイトの分類では、ケルト神話の体系に含めて扱う。三人が組で現れるため群記事とする。
死者の衣を洗う
洗濯女たちは夜の川辺で、まもなく死ぬ者の血に染まった衣を洗い続けている。通りかかった者がその衣を自分のものだと気づけば、その人は死ぬ。出会うこと自体が、死が近いことのしるしとされた。
手伝ってはならない
洗濯女は通りかかった者に「手伝っておくれ」と声をかける。断れば殺されるが、手伝っても、腕を折られて水に引き込まれるという。ただ一つ助かる道は、洗濯女と同じ向きに布を絞ることで、逆向きに絞れば腕をねじり折られる。生死を分けるのは、布を絞る向きというささいな所作なのである。
バンシーの姿の一つ
アイルランドのバンシーは、泣き声で死を告げる女の霊である。スコットランドでは、同じ死の告げ手が「洗う女」ベン・ニーエとして、川辺で死者の衣を洗う姿で語られることが多い。泣く女と洗う女という違いはあるが、同じ役割の霊が地域ごとに異なる所作で表されたものと考えられる。
大西洋岸への広がり
スペイン北西部のガリシア、アストゥリアス、カンタブリア、そしてポルトガル北部にも、同じ洗濯女の伝承が伝わる。これらの地域はケルト系の住民の基層を持つとされ、ブルターニュからイベリアまで、大西洋岸に沿って同じ伝承が分布している。ただし、どこまでが歴史的なつながりによるものかについては議論がある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ヤン・ダルジャンの《夜の洗濯女》(1888年)である。
関わる伝承
バンシーとともに死の告げ手の系列をなし、夜の水辺で洗濯をするポーランドのボギンカとも主題を共有する。
同じブルターニュの死の使いとして、荷車を引くアンクーがいる。
文化的足跡
夜の洗濯女は、ブルターニュとガリシアの民俗のなかで最もよく知られた存在の一つである。
なおケルトの伝承は今日も語り継がれており、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。