嫘祖
西陵氏 · 先蚕 · 蚕神
黄帝の妻で、茶に落ちた繭がほどけるのを見て絹を発見したとされる。養蚕と織機の発明者として蚕神・先蚕と祀られ、歴代皇后が先蚕壇で儀礼を行った。
解説
概要
嫘祖(レイソ)は、中国の伝説上の后で、黄帝の妻である。西陵氏とも呼ばれる。
伝統によれば、前27世紀に養蚕を発見し、絹の織機を発明した。
伝承
伝説によれば、嫘祖は午後の茶の席で蚕を発見した。繭が茶のなかに落ち、ゆっくりとほどけていくのを見て魅了されたという。
一つの伝えでは、茶の熱で繭がほどけ、絹糸が庭中に伸びた。糸が尽きたとき小さな繭が残っており、これが絹の源であると悟った。別の版では、桑の葉を食べて繭を紡ぐ蚕を見つけ、繭をいくつか集めて茶の席に着き、一つを湯に落としたところ、細い糸が離れはじめた。指に巻き取れる柔らかな糸であった。
嫘祖は夫を説いて桑の林を与えてもらい、そこで蚕を飼い慣らした。細い繊維をより合わせて織るのに十分な強さの糸にする糸繰り機、そして織機の発明が、この后に帰される。
養蚕の技術を人々に教えたことから、蚕神、先蚕として祀られた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、『廿一史通俗衍義』の挿絵「黄帝妃西陵氏教民蚕」である。西陵氏が民に養蚕を教える場面を描く。
この人物が担うのは、文化英雄という機能である。黄帝が文明の諸制度を定めたとされるのに対し、その妻が絹という中国を代表する産物の起源を担う。夫婦で文明の創始を分担している。
茶の席で繭が落ちるという細部は、発見の偶然性を語る。意図して求めたのではなく、偶然に気づいた——技術の起源譚にしばしば見られる型である。
関わる神格・伝承
夫は黄帝。子に玄囂、昌意があり、昌意の子孫が顓頊とされる。
歴代の皇后は先蚕壇で嫘祖を祀り、養蚕の儀礼を行った。皇帝が先農壇で耕作の儀礼を行うのと対をなす。
文化的足跡
四川省塩亭県をはじめ、各地に嫘祖の生地を称する場所がある。今日も養蚕の守護神として祀られ、嫘祖祭が営まれる。
日本語圏では、養蚕の起源譚として、あるいは黄帝の妻として名が挙げられることがある。日本の養蚕神話——オオゲツヒメや蚕影神——とは別系統である。