キンナル
キンナル · Kinnaru
竪琴を神格化したウガリットの神で、神名表と供物の一覧にのみ現れる。ヘブライ語の「キンノール」(ダビデの竪琴)と同語である。楽器や玉座といった器物が実際に供物を受ける神として扱われる、古代近東の実践を示す。
解説
概要
キンナルは、弦楽器——おそらく竪琴——の神格化として機能したウガリットの神であった。
ウガリットの文書にわずかしか確認されず、いくつかの神名表と供物の一覧に現れるのみである。知られる神話には全く現れない。
『イーリアス』に言及されるキュプロスの神話上の王キニュラスが、この神に由来するとする想定がときになされる。
なお本サイトの分類では、フェニキア/ウガリットの体系に含めて扱う。
楽器が神である
キンナルは、楽器そのものの神格化である。
キンノール。 ヘブライ語の「キンノール」(竪琴)と同語である。ダビデが弾いた楽器の名である。
ギリシア語へ。 ギリシア語の「キニュラ」も同源である。
セム語圏の共通語。 この楽器の名が、古代近東に広く共有されていた。
物が神になる
道具が神格になる例は、古代近東に複数ある。
メソポタミア。 竪琴、太鼓、鋤、そして門や扉が神として供物を受けた。
ウガリット。 キンナルのほか、玉座や武器も神名表に現れる。
祭祀の対象。 これらは実際に供物を受けた。単なる比喩ではない。
聖なる物。 神殿で用いられる器物が、それ自体聖なるものとして扱われる。
キニュラスとの関係
『イーリアス』に、キュプロスの王キニュラスがアガメムノーンに胸当てを贈ったという記述がある。
アプロディーテーの祭司。 後代の伝承において、キニュラスはパポスのアプロディーテー神殿の創建者であり、その祭司の家系の祖とされる。
アドーニスの父。 その娘ミュラーとの近親相姦からアドーニスが生まれたとされる。
フェニキアとキュプロス。 キュプロスはフェニキアの植民の地であり、両者の宗教は密接に関わる。
キンナルとキニュラスの関係は、この文脈で論じられてきた。ただし確証はない。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
竪琴の神格化。キニュラスとの関係が論じられる。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。古代近東の音楽の研究において言及される。