イメンテト
アメント · アメンテト · イメンティト
「西方の女」を意味し、ナイル西方の墓地を表す女神。ドゥアトの入口を望む木のなかに住み、新たに到着した死者に食物と飲物を供する。公式の祭祀はなく、墓の壁画ではハトホルと同一視される。
解説
概要
イメンテト(jmntt / Imentet)は、「西方の女」を名とする古代エジプトの女神である。ナイル西岸に広がる墓地と、その先にある死者の国そのものを体現し、墓に入る死者を迎え入れる。
神話・物語
エジプトでは、太陽の沈む西が死者の国とされた。町は東岸に、墓地は西岸に築かれ、死者は「西方の者たち」と呼ばれた。イメンテトは、この西という方角と、その向こうの冥界ドゥアトへの入口を人の姿で表した女神である。
冥界の入口を見下ろす木に住み、新たに着いた死者に食べ物と飲み物を差し出して、来世への旅を続ける力を取り戻させるとされた。独自の神殿や公的な祭祀は知られず、『死者の書』の讃歌や葬祭文書のなかで、死者を迎える女神として呼びかけられる。冥界で太陽の舟を導く神アケンの配偶者とする伝えもある。
図像と象徴
赤い筒形の衣をまとい、頭上に「西」を表す文字——羽根を差した旗竿のような印——を載せ、笏とアンクを持つ女性として描かれる。第18王朝末のホルエムヘブ王の墓(王家の谷 KV57)の壁画では、王を迎える姿で表される。翼を広げた姿や、イシス・ネフティスとの結びつきからトビの姿で現れることもある。
「西方の女主人」はハトホルの称号でもあり、テーベ西岸の山に住む牝牛の女神ハトホルが、同じ頭飾りをつけて死者を迎える姿で描かれることが多い。墓地に立つシカモアイチジクの木から女神が現れて死者に水を注ぐ場面も新王国の墓に繰り返し描かれ、イメンテト、ハトホル、ヌトのいずれとも結びつけられた。
系譜と関係
来世での役割がハトホルやイシスとあまりに重なるため、独立した女神というより、両女神の別の現れとみる見方もある。西方砂漠の神ハとは西という方角を共有する。
文化的足跡
「西」の文字を頭に載せた女神の姿は、新王国の王墓や貴族墓の壁画で死者を迎える定番の図像となり、エジプトの来世観を象徴する場面として知られる。