ヘムスト
ヘムスト · ヘムセト · ヘムセト
カー(男性の守護霊)に対応する女性の運命と守護の女神たち。養いと生命力と呪術的な守護をとりわけ新生の王族に与える。矢の交差した盾を頭飾りとし、これはサイスのノモスとネイトの標章でもある。
解説
概要
ヘムスト(ḥmswt / Hemsut、ヘムセトとも)は、生命力カーの女性の対にあたる古代エジプトの女神たちである。一柱ではなく複数の女神の一群として現れ、カーと同じく養いと生命力、呪術的な守護を与える。とりわけ生まれたばかりの王の子を腕に抱く、運命と守護の女神として描かれた。
神話・物語
『ピラミッド・テキスト』(第396章)では、ヘムストはカーとともに王を養い、力と守護を授ける存在として現れる。エジプトの人間観で、カーは食べ物によって養われ死後も存続する生命力であり、供物は死者のカーに向けて捧げられた。ヘムストは、そのカーを女性の側から補う霊である。
神殿の誕生の場面では、ヘムストはカーの神々と並んで新生の王子を受け取り、守る役を担う。王の誕生を神々が祝福する図像の中で、生まれた子の生命力と行く末を保証する者として置かれた。
図像と象徴
女性の姿で、頭上に二本の矢を交差させた盾を載せる。この盾は下エジプト第5ノモス(サイス)の州章であり、同州の女神ネイトの標章でもある。盾の上には、それぞれが対応するカーの名、たとえばヘカ、フウ、シアなどが書き込まれることがある。
系譜と関係
カーの女性の対として、特定の神の家系には属さない。標章を共有するネイトとの結びつきから、もとはサイスに縁のある女神たちだったと考えられている。人に男性と女性の守護霊を配する点で、ローマのゲニウスとユーノーの対に比べられることがある。
文化的足跡
ヘムストは、カーやバーなど、人をいくつもの霊的な要素の組み合わせとして捉えたエジプトの人間観を論じる際に、カーの女性形という珍しい例として言及される。